2009年09月28日

秋成の師の墓石

上田秋成の国学の師は加藤宇万伎である。幕府の大番与力で、たびたび上方に来て、大坂城・二条城を警護した。秋成と知り合ったのは大坂に来ていた時だろうが、その年次は明和八年が有力である。その宇万伎は安永六年の六月に京都で客死する。その墓は現在無縁墓となっていると聞いていたが、きのう、ゼミ研修で京都に出た際、宇万伎が詰めた二条城で解散だったので、そのあとひとりで、そのちかくにあるはずの三宝寺をたずねた。こういうところは、なんとなく最初はひとりでたずねたいものなのである。

堀川通りを少し南に下がり、意外にも商店街入口から入ってしばらく商店街を歩く。三条大宮公園をすぎて、細い道を少し北へ上がった突き当りに三宝寺はあった。

幸いに御住職が門のところにいらっしゃったので、「ここに加藤宇万伎という人の墓があるとうかがって」というと、「墓石はあります」と。中に入れていただき、見せていただくと、たしかに無縁墓石群の中ではあるが、意外に目立つところに「藤原美樹」と刻された墓石があった。感銘を受ける。秋成が終生尊敬してやまなかった人の墓石がこうして今もあるということに。

無縁墓になっても、こうして残してくださっている三宝寺に感謝する。このあと、御住職と少し話をしていて、ちょっと驚くことがあった。それはしばらく胸にしまっておこう(写真もここでは公開はいたしません、あしからず)。またおうかがいすることにして辞した。京都は夏日で暑い一日だったが、墓石の文字をしっかり焼き付けた私の足取りは軽かったのである。
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2009年09月26日

江戸の長編読みもの展

国文学研究資料館で、特別展示「江戸の長編読みもの―読本・実録・人情本」が始った(10月23日迄。日・祝日、10/5休館。10時〜16時30分。毎土曜日14時からギャラリートークも行われる。

この展示は国文学研究資料館のプロジェクト「近世後期小説の様式的把握のための基礎的プロジェクト」の一環で、代表者は大高洋司さん。このプロジェクトには、私も一応役に立たないながら参加させていただいている。

今回の展示では(写真パネルを含めて)100点弱が展示される。『新編金瓶梅』(馬琴合巻)板木、秋里籬島の自伝『秋里家譜』なども展示される。これだけの展示は滅多に見ることが出来ないから是非見たいのだが、さてどうやって時間を作ろうかな。

かつて品川に国文研があったころ、八戸市立図書館所蔵の読本展が行われたことがあり、これが『読本事典』(笠間書院)に繋がったが、今回も、この展示と連動する形で『人情本事典』(笠間書院、2009年11月刊行予定)が刊行されることになっている。こうしたジャンル別事典がさらに広がるとなかなか面白いことになりそうだ。『浮世草子事典』とか、『洒落本事典』とか…。
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2009年09月23日

江戸風雅

明治大学の徳田武氏が、『江戸風雅』という近世漢詩漢文の専門誌を創刊したようである。公式ブログも開設されている。

ブログによれば、運営組織は『江戸風雅』の会といい、その目的は

「江戸時代から明治・大正にかけての日本漢詩文、および日中比較文学を研究することにあります。具体的には、漢詩漢文・小説・和歌・俳諧・狂歌・狂詩狂文・川柳・演劇・絵画・中国文学、およびこれらに関わる人物を研究し、新事実を闡明する事を目指します。」

という。

実は日本近世文学の中で今活性化している分野が漢詩文なのである。しかし、その専門誌が登場するというのは、素晴らしいことである。創刊号は11月らしく、すでに昨日の「蹶起集会」(編集会議)において、第一線の研究者6名が投稿することが明らかになったという。実に楽しみなことである。

秋の近世文学会で、創刊号が披歴されるのだろうか。期待が高まる。

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2009年09月20日

ソウル日記

17日。14時30分ころソウル着。出迎えの学生のヤン君の案内で高麗大のゲストハウスへ。ヤン君はM2だが崔官先生の助手を務めている。韓国では学生が助手を務めるシステムらしい。ゲストハウスの前で撮ったヤン君(写真)。
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ゲストハウスは長期滞在仕様で、自炊設備・大型冷蔵庫が備わっている。大きな食卓兼机、ネット環境も完備している(今回、PCは持って来なかったが)。しばらくして延広真治先生が到着、崔官先生が所長をつとめる日本研究センターへ。競争率15倍以上の外部資金獲得競争に勝利し、文系では異例の10年間の巨額の補助金獲得で、6階建ての拠点ビルを建てた。その施設の充実ぶりに驚く。いろいろ情報交換などして、やがて夕食会場へ。長島弘明さん、佐伯孝弘さん、佐伯順子さん、延広先生の教え子の韓国の方々なども合流。美味しい韓定食に舌鼓を打ちながら初日は暮れていく。
18日。シンポジウム当日。朝は5000W(370円)でビュッフェ形式の朝食。心配していた体調も大分回復した。韓国では新型インフルエンザ対策が徹底していて、37.4度以上あったら入院させられるときいてぎょっとした。なにせ月曜日には、37.4度の熱がありましたので(診察の結果単なる風邪だったが)。フロントでは熱も測らされた(35.8度だった)。九大時代の後輩である康志賢さんも司会者として来ていた。このゲストハウスに泊っていたらしい。歩いて会場へ向かうと、我々を歓迎する横断幕が(写真)。「日本近世文学・文芸の中心と周縁」がテーマ。会場の仁村記念館は素晴らしい施設。
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まず延広先生が基調講演。「肉付きの面」の話型が江戸文学の種々の作品にとりこまれているところから、江戸文学の多様性に及ぶ面白い講演だった。休憩をはさんで第1パネル。長島さんの『藤簍冊子』論、金英哲さんの、酒宴・風流をめぐる「遊女」と「妓生」の比較論、そして私の秋成晩年の「いつわり」についての論。ディスカサントの沈先生は高麗大の漢文学の先生だが、的を突く鋭い質問を繰り出していた。これにパネリストが答える形をとり、時間の関係でフロアからの意見や、パネリスト同士の討論はなく、おかげで?無事に第1パネル終了。そのあと食堂で昼食。私は「さしみどんぶり」をいただいたが美味であった。その後、崔官さんが、百周年記念会館の中にある博物館を案内してくれた。「国宝」が3つもあり、展示室も7〜8室ある本格的博物館で、これまた度肝を抜かれる。

 昼からは、多角化する江戸文芸をテーマに、第2パネル。佐伯順子さんがジェンダー論的観点からの色道論を、崔京国さんが、虎狩の画像論的考察を、鈴木淳さんが「めめしさ」をキーワードとする秋成文学論を話した。秋成研究者である金京姫さんがディスカサント。鈴木さんの「めめしさ」論は拙論を批判するところがあったものの、私の発言の機会はなかったのでちと残念。虎狩の図像学はパターン化された形が多く示されていた。

第3パネルは「語られる怪」のテーマで高永爛・佐伯孝弘・朴熙永氏。貧乏神の文学史を構想される高さん、怪異と笑いの併存を問題意識とする佐伯さん、秋成の怪異を正面から論じる朴さんとそれぞれの切り口で論じられた。ディスカサントの李(慶北大)さんも熱っぽく語る。全体で予定は1時間以上オーバーしており、崔官さんが、休憩なしで最後、フロアから2つだけ(結果的には3つになったが)の質問を受けてしめた。総合討論の時間はなかった。

夜の懇親会は、延広先生の古稀を祝う会がサプライズで仕掛けられていた。今回の参加者は、崔先生をはじめとして、延広先生の教えを受けた人達が多数いた。先生は1980年代に、10か月韓国で教べんをとっていたがその時の教え子たちや、東大での教え子たちがたくさん集まっていた。延広先生も言葉に何度もつまって涙涙のスピーチであった。その場に居合わせることのできた私は幸せだった。
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2次会はビアガーデン。星を見ながら。ここで私は『春雨物語』を翻訳した学生(といってもプロの翻訳者)と1時間半くらい話をしていたのだが、ここではとても語りつくせないくらい興味深い話ができた。とくに仁斎の論語古義についての彼の感想が印象に残っている。春雨物語についても非常に面白いことをいうので是非論文にしてくれるようにお願いしていた。そういえば、途中から非常にダンディで快活な中年紳士が手を振りながらやってきたので、あの方も韓国の延広先生の教え子の方なのだろうか、と思っていたら、染谷智幸さんだった。たまたま学生の研修引率で来ていて、我々のことをきいて駆けつけてくれたらしい。2次会は夜11時30分まで続いた。

19日。阪大の留学生康盛国さん夫妻が宿舎まで来てくれる。車で向かうのはもちろん大長今(チャングム)テーマパークである。後輩の康志賢(女性)から「ええー、飯倉さん、そんなところへいくんですかあ?」と九州なまりの日本語でいささか軽侮されていたのだが、長島さんには「ぜひDVDを買うように、それからね…」などと指南を受けた。ゆきかえりとも大渋滞だったが、チャングムパークでは、ハンサングンと写真を撮ったりして楽しめた。
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DVDも購入。昼食も忘れられない美味。高麗大の地下街のコーヒーショップで最後を過ごせたのもよかった。最後はまたヤン君に見送られてタクシーに乗った。今回いただいた名刺は17枚。近いうちにまた行きたい。
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2009年09月17日

今日からソウル

高麗大は日本で言えば早稲田大学。(ちなみに延世大が慶応大学)。非常に立派な大学である(前に1度いったことがある)。なにせ地下街まである。OBたちの寄付で立派な建物もたっている。OBが大学を支えていると聞いたことがある。

シンポジウムの最終プログラムが送られてきた。今回はすべて日本語で行われるということ。Proceedingに書いたことを半分くらいに端折って話さねばならない。それより今回は他の人の発表がとても楽しみである。秋成が4本もあるし。

というわけで、忘れものがないかどうかを確認して、行ってきます。
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2009年09月11日

高麗大でのシンポジウム

韓国の高麗大で行われるシンポジウムのプログラムをアップしておきます。

秋成が異常に多いが、没後200年にふさわしいのではないだろか。泉下の秋成も、まさか200年後に、こんなことになるなんて思いもよらなかっただろう。

さて私の発表、予稿集の原稿は既に送っているのだが、それを読むと制限時間を軽く超えてしまうので、実際の発表ではどうにか縮めなければならない。それが難しくて困っている・・・・。

【プログラム】
2009年度国際学術シンポジウム
「日本近世文学・文芸の中心と周縁」

開催日時:2009年9月18日(金)午前9時〜午後6時
場  所:高麗大学校仁村記念館 第一会議室
主  催:高麗大学校 日本研究センター

09:40-10:20
延広真治(帝京大・東京大学名誉教授)
 江戸文学の豊かさ

第1パネル 読みなおされる江戸文芸
長島弘明(東京大)
 物語集としての『藤簍冊子(つづらぶみ)』―秋成における物語の生成―
金榮哲(漢陽大)
 周縁、その遊興と風流の虚実
飯倉洋一(大阪大)
 秋成における「いつはり」の問題―『春雨物語』を中心に―

第2パネル 〈色〉からみた江戸文芸
佐伯順子(同志社大)
 「色道ふたつ」の時代
崔京國(明知大)
 絵画から見られる壬辰倭乱における日本武士の虎狩
鈴木淳(国文学研究資料館)
 上田秋成の文学観―さてもめめしとや聞たまはん―

第3パネル 語られる〈怪〉
高永爛(高麗大)
 江戸時代と「窮鬼」
佐伯孝弘(清泉女子大)
 近世前期怪異小説と笑い
朴煕永(高麗大)
 秋成における怪奇の変化とその意味
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2009年09月03日

谷脇理史先生

8月29日の研究会の際に、谷脇先生逝去の訃報を知った。

9月1日館林で行われた告別式。田中善信さんが弔辞で「谷脇さんは穏和だが信念の人だ」という意味のことを言い、中野先生と文学観・研究観を2時間も戦わせていたという逸話を披露した。

そういえば「文学」誌だったと思うが中野先生の『近世新畸人伝』のかない長い書評の中で、谷脇先生は「勇ましくなくていいから中野さんの解釈をききたい」という意味のことを書いておられたと記憶する。あるいはこのころ、その論争がおこなわたのではなかったか。文学観は対照的だったが、最も深い理解者の一人であられたと思う。

 私が研究対象に近世文学を選んだ学部4年の春、トップバッターで演習を担当することになったが、その時のテキストが『好色一代男』だった。中野先生から「谷脇君の論文を読んでおくように」と指示され、研究と評論に連載されていた「『好色一代男』論序説」という長い論文を読んだ。いままで読んだことのないタイプの、しつこく論理的な論文で驚いた。そして「世の介は浮世の論理と倫理を相対化する存在」ということを述べたその論文を、一代男の本質をついたもののように思った。

今思うと、私はこの谷脇論文にかなり影響を受けていたようだ。博士論文の審査の時に、今西祐一郎先生から「「相対化」という言葉が多いのが気になる」といわれ、はっとしたのだが、そういう考えの発想源は谷脇論文だったのかもしれない。

 博識で蒐集家でもあったが、研究は西鶴ひとすじであった。暉峻康隆・野間光辰両巨人についで、その名を冠した西鶴学(谷脇西鶴)を打ちたてた。いま後進の研究者たちは、谷脇西鶴に挑み続けているが、その壁は高く厚い。

ご冥福を心よりお祈りする。
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