2009年11月29日

浮世絵百華

東京のたばこと塩の博物館で行われている中央大学創立125周年記念特別展の「浮世絵百華」(平木コレクションのすべて)。

東京出張の際に渋谷に寄りたいと思っているが、図録を先に拝見している。B5判オールカラー143頁(うらやましい…こちらのことだが)。

この展示が変わっているのは、展示期間前半と後半で展示内容が全く違うことである。前半は、「これぞ浮世絵!」と題し、名品がこれでもかというくらいに展示されるのは壮観で、ぜいたくな浮世絵入門というところだろう。

後半は「浮世絵とは何であったか―浮世絵文化史学―」と題して、浮世絵を文化史の文脈で、それも近世的な価値観において見てみようというコンセプトである。

 江戸時代における浮世絵とは藝術的な意識で制作されたわけではなかった。普通のものとして身近にあった。そのことを展示で見せようということのようだ。そこで浮世絵だけではなく黄表紙や経典余師(漢籍の素読が仮名で出来るような一般向けの勉強本)も展示されるようである。時代の中の浮世絵、メディアの中の浮世絵。いうまでもなく、鈴木俊幸さんのプロデュースである。

これは前期も後期も観たいけれど、2回行くのはなかなか厳しいな。前期は13日まで、後期は15日から1月11日まで。月曜と年末年始休館。休日開館。10時から18時まで。
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2009年11月28日

田渕句美子『阿仏尼』

吉川弘文館の人物叢書。対象が文学史上の人物であっても、日本文学研究者が著書となることは案外少ない。とくに最近は、田中善信氏の『与謝蕪村』ぐらいしか思い当たらない。ミルネヴァ書房のは、比較的日本文学研究者が書いているのが多いと思うのだが。

そんななか、田渕句美子さん(ねんのため、篤姫の田渕久美子さんとは別人です)が『阿仏尼』(奥付12月)を刊行された。ご多忙の中、次々と良質な本を出されるのに敬服する。その伝記もさることながら、私らにとってありがたいのは、『十六夜日記』の受容や、女訓書作者としての阿仏尼という側面を解説する、中世以後近世、近代にいたるまでの第10章以降である。この記述が充実しているようだ。

渡辺泰明さんもそうだが、田渕さんも(私がちょっと上ですが)ほぼ同世代なので、中世文学研究者とはいえ、そのお仕事ぶりには注目しているが、本書のご上梓慶賀の至りである。私も四の五のいわずにがんばらねば・・・。

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2009年11月27日

松本健『仮名草子の〈物語〉』

 松本健さんは、現在高麗大学にいらっしゃる。9月同大学でおこなわれたのシンポジウムのあとの懇親会で少しお話することができたが、その時、まもなく博士論文を出版されるということであった。私は松本さんの真面目で謙虚な感じが好もしかったので、どういう論文を書かれるのか、楽しみであった。

 それが『仮名草子の〈物語〉―『竹斎』・『浮世物語』論』(青山社、2009年10月)である。

 この本もいますぐにはよめないが、「序」や「あとがき」、各論文の冒頭などを拾い読みすると、なかなか意欲的な論著である。松本さんの風貌とは違って、挑戦的でさえある。とはいえ浮いた論ではない。

 中世から近世への過渡期的な位置づけという枠組みによって見えなくなった仮名草子を、もっと対象に即してきちんと読み解こうとするもので、作者や読者の持つ知の枠組みを想定しながら読みたいという。

 仮名草子研究というのは、私にはよく流れがみえないのだが、近年は書誌的・文献的な研究が目立っているようにも思う。松本さんのように、「読み」で勝負するタイプはあまりいない。その意味でも大変たのしみだし、提起している問題は、近世文学全体にかかわるものでありそうだ。ともあれ、中身を読まないと、と思いますが、これから12月前半にかけて、かなりハードなスケジュール。もすこしして中身をご紹介できればと思います。
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2009年11月25日

箕面山

いつのまにか美しく色づいている。久しぶりにモノレールに乗って、車窓から午前の陽をうける箕面の山を見た。秋成もその紅葉をたたえる文章を書いていることを思い出した。
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2009年11月15日

機は熟している

先週の日本近世文学会では、西鶴の読みをめぐって面白い質疑応答があった。西鶴の秘められた意図に迫っていく発表に対して、当時の読者はそれを理解しえたのかという趣旨の質問があり、議論になった。作者と読者の間のコード(っていうのもややなつかしい感じのタームになってしまったが)の問題である。

 近年の文学研究は、テクスト論の洗礼をへて、作者側から読者側の立場に移行していると言われている。近世文学研究では必ずしもそのようになっているとは思えない。示された作品(テクスト)の読みが、どちらの立場でなされているのかということに無自覚である場合が多いといえよう。

 しかし、たとえば源氏物語の本文論などでも、オリジナルの源氏物語に迫ることより、さまざまな読者の読みに基づく異文の魅力を洗い出す方が主流になってきているのではないのだろうか。少しまえにふれた大島本源氏物語の研究などを拾い読みしても、そんな感じがする。

 さっき私が書いた「作品(テクスト)」という書き方については、実は作者の立場と読者の立場の両方を意識して本文を論じているという意味で、一時期の私が使用していた書き方なのである。これに気付いてコメントしてくれた人はこれまでたったひとりだったのだが。まあ、そういうことは近世文学研究ではさほど問題にはなっていないということなのであろう。

 しかし、この問題が非常に鮮明に問われたのが、冒頭で述べた質疑応答であったのである。しかも、発表者が野間光辰氏の、質問者が暉峻康隆氏の、という戦後西鶴学の二巨頭の学統の流れをくむ現代の論客ふたりの対決だ!という見方も可能だったので(そんな見方をされても迷惑でしょうが)、私なりにスリリングに拝聴したのである。

 ところで、2日ほど前に、私より7歳ほど年下の近世文学研究者と、研究の現状について話をした。彼らの世代(40代半ば)は、文学史の再構築について考えている人が結構多いのだという。文学史の議論というのは、ここ20年くらいは、学会では非常に低調であると言わざるを得ないが、一方でさまざまな新知見が出ており、そろそろ文学史の書き換えが、学会全体の議論になってもいい時期に来ているのかもしれない。

 そうであるなら、ある程度研究を重ねてきたはいるが、旧来の文学史観に対して若干距離を持っている、40代なかばほどの諸氏に、学会員が多数参加できるような場で、意見を戦わしてほしいと思う。もちろん50代以上も参加していいとは思うのだが、40代でやれば確かに面白い気がする。これまで彼らは文学史的なことを表明する機会があまりなかったように思うからである。基調報告はやめて、いきなり議論をし、フロアが発言する時間もたっぷりとって中途半端にならないように、2時間くらいぶっとおしでやるというのはどうであろうか。シンポジウムというのは往々にして失敗するが、それは議論が大体見えているからだと思う。誰が何をいうかわからないシンポジウムを開いて、議論をたたかわすということを是非やってもらいたいものである。

 以上と一見まったく関係ない話だが、昨日は、主として本を「観る」ために、3箇所をハシゴして、存分に堪能することができた。質量ともに1日にこれだけの本を見るのは滅多にないというような日であった。それを見ながら、本文の議論はやはり「モノとしての本」のあり方とも関わらせなければならないということを改めて痛感した。おとといの年下の研究者との談論でも、その話が出た。それが近世文学特有の視点になるはずであろう。日本史や美術史でも新しい動きがあるように仄聞している。専門領域を超えて、文化史の方法について議論するというのもアリかもしれない。
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2009年11月12日

パワーポイントで授業をする

パワーポイントをはじめて使って、授業をした。
200人近い授業で、かつカラーをふくめて図版を多数使用するので、やむをえない。

やってみると難なく出来てしまった。
50以上のスライドを使用したが、1時間で使い切る。

しかし、パワーポイントというのは紙芝居だから、当然ながら学生は画面を見ていて(見ていない人は、聞いてもいないわけで)、しゃべっている私を見ているわけではない。

それで、伝達度が低いような気がする。まあ、大勢の授業だともともと伝達度は低いわけだから、それでよいのだが。
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2009年11月09日

中尾堅一郎氏

昨日のエントリーで書いた「仰天すべき事」というのは、学会の書籍販売コーナーに、中尾松泉堂書店が出店。古書販売をしていた。古書販売そのものは、以前にも見たことがあるのだが、そこでまぎれもない秋成の新出自筆資料が出ていたのでびっくりした。秋成200年ということもあったのだろうか。まあ、こんなことは空前絶後だろう。

そのあとのことも、いろいろと漏れうかがうところがあったが、ここではそれまでとしておこう。

中尾松泉堂の会長であられた故中尾堅一郎氏。この名前を知らない近世文学研究者はいないだろう。今年7月になくなられた。堅一郎氏を追悼する方々の文章が、『木村蒹葭堂顕彰会会報 蒹葭堂だより』第9号(2009年11月)と『混沌』33号(2009年11月号)に掲載されている。読めば、そのお人柄がよくしのばれよう。

 私のようなものでも、松泉堂で本をかうことがあったが、最初にうかがったのは九州大学の助手の時だったが、中之島図書館訪書の帰りで、ある上方文人の随筆を購入させていただいた。『田舎荘子』のきれいな本も見せていただいた。若い研究者を育てるという気概をお持ちの方だったとうかがっていたが、本当にその通りだと思った。

 たまに古書市でお会いするときには、いつも気さくにお声をかけてくださったが、そのたびに自己紹介をすると、思い出してくださるというくらいのかかわりだったが、「あ、そういえば懐徳堂関係のものが」と教えてくださったこともあった。

 私の手元にある、松泉堂から購入した、ある短冊。これを私は堅一郎氏をしのぶよすがとしたい。


 






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2009年11月08日

ブログ談義

日本近世文学会初日。関西学院大学。

お天気にも恵まれて、キャンパスの美しさが映えまする。

『江戸風雅』がお披露目。水色のさわやかな表紙、しかもB5。『文献探究』を髣髴とさせる縦書き目次の表紙である。わが『上方文藝研究』とも同じ書型で、連帯感が湧く。これから拝読させていただきます。

懇親会席上で、おそれ多くも「江戸風雅の会」主宰の徳田武先生とブログ談義を少々。雲烟過眼録とその名も風雅です。「トラックバックって何?」ときかれ、「もがもが」と怪しいことを答えたりいたしました。「私的なことは書かないようにしている」とも(ほんとうはちょっと書きたいような感じでございました)。

ブログのエッセイが「江戸風雅」のコラムに。あとでご本になる雰囲気がいたしましたな。是非お願いします。

ともあれ、リンクを張らせていただくことの、ご了承を得ました。

ところで『蘆庵文庫目録と資料』の売れ行きはって?
それは、そのう。

もひとつ仰天したことがあったが、これは学会が終わってから書くとしよう。
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2009年11月06日

活字版の本文異同

『江戸文学』41号の柳沢昌紀氏の論文について、閑山子氏がブログで、

古活字版『信長記』には本文を一部異にする版が数種あるが、それは献上する相手に応じて、「オーダーメイドのような感覚で」作り替えていたという指摘(これは『軍記と語り物』44号、2008.3に詳論があるらしい、未見)は面白い。

と感想を述べているが、全く同感であった。近世木活の『草茅危言』(中井竹山)でも、本によって内容が違っているけれど(ちょっとだけ調べたことがありまして、そのあと放置)、そういうことがあったのかなあ、と思いつつ拝読した。
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2009年11月05日

上田秋成の思想と文学

加藤裕一氏の『上田秋成の思想と文学』(笠間書院、2009年10月)が刊行されている。

秋成200年祭にちなむ秋成研究書の刊行である。

加藤氏は2008年に『上田秋成の紀行文 研究と注解』を上梓されたばかりであり、2年連続での秋成研究書の刊行である。

今回の本は『雨月物語』・『春雨物語』・『諸道聴耳世間狙』と『安々言』『藤簍冊子』を論じたものである。

特に『安々言(やすみごと)』は、滅多に論じられる対象ではないのだが、初出の1986年に私もこれを論じたので、当時この論文を見て驚いたことがある。ほぼ同時期のため、たがいにその論を参照することはなかったが、加藤氏は、私の処女論文である「秋成の「私」の説について」を引いてくださっていたので非常に恐縮した覚えがある。

今回、30年以上にわたる秋成の諸論考をまとめられたのは、参照しやすくなってありがたい。ただあえて書き換えをしなかったために、最新の研究成果を取り入れていない部分がみられるのは惜しまれる。
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2009年11月04日

江戸文学41号

『江戸文学』41号(2009年11月)は、「軍記・軍書」を特集。責任編集は井上泰至さん。論文10本とコラム2本。最近の江戸文学はヒットが続いているが、この特集も軍書研究とその周辺の論考を集めて、軍書を多面的に照らしだし成功していよう。

黒石陽子さんの「人形浄瑠璃と近世軍書」は享保から寛延にかけての浄瑠璃が複雑で立体的な作品たりうる理由として、軍書からの影響(あるいは軍書離れ)があるとし、『ひらがな盛衰記』(当時の軍書の木曽義仲解釈の多様化を受けている)、『仮名手本忠臣蔵』(『太平記評判理尽抄』、今尾哲也氏)、『和田合戦女舞鶴』(『吾妻鏡』『北条九代記』ばなれ、内山美樹子氏)など従来指摘されているものに加え、『赤沢山伊東伝記』が、「もうひとつの曽我」と呼ばれる『曽我勲功記』『曽我物語評判』を踏まえながら、そこから独自の解釈に展開しているという。個々の事例を享保期から寛延期の浄瑠璃史の中に位置付けて大きな視点を提供しているところが面白く、勉強させていただいた。

衣笠泉さんの「武家説話の成立」は『常山紀談』が家康一代記を内包する武将説話集であることを指摘する。衣笠さんは、私の教え子で阪大の博士前期課程を終了後、現在広島県の中学校の教師をしている。中学教師としての大変な仕事の中で、一生懸命書いたものである。

ところで、執筆者一覧をみて、ぞっとした。私より年上の人がひとりもいないのである。『江戸文学』を1号から読み続けているが、このようなことははじめてではないか。時の流れは・・・

きのうの講演のあとも、他の講座の受講生だった方に、「お久しぶりです。先生の頭も白いものが増えましたね」というようなことを感想カードに書かれましたからな。ただ少年老い易く、学成り難し。
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2009年11月02日

寒くなりました

2009年度立命館大阪プロムナードセミナー「大阪・京の色彩(いろどり)」という続きもの講座の1つを担当、「上田秋成の大阪」というお題でお話をしてまいりました。

祭り、美術、演劇、花街、華道、能、というラインナップの中でちょっと無理があるのですけど、主催者側からいただいたお題なので。

立命館大阪オフィスというところは、地下鉄淀屋橋駅を降りてすぐのところで、交通至便。50名ほどの受講者の方を相手に、秋成200年にちなむ展示の宣伝も一応してまいりました。天理は今やってます。来年は京博へお運びくださいと。

秋成の生涯と、大阪時代の秋成についての秋成自身の言及を中心に話をまとめましたが、終了後、秋成という人物に興味を持ってくださったという方たちといろいろお話できまして、楽しかったです。

行きはぽかぽかとあたたかかったのに、帰りは冷たい雨に打たれながら、冬が近づいていることを実感しました。
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2009年11月01日

横山先生の会と濱田先生の論文

ここでご紹介した論文集が、昨日、広島ガーデンパレスで行われた横山邦治先生の叙勲・喜寿(そしてもうひとつサプライズなおめでたい話があったが)をお祝いする会で、献呈された。

濱田啓介先生が横山先生の業績について詳細に紹介された。
まず横山先生の主著『読本の研究』の意義。読本研究者は本書をひもとくところからこの道に入っていくというのは現在に至るまで変わりない。
第2に『読本研究』を創刊し、読本研究者を育てられたこと。濱田先生らしく、読本研究に掲載された論文の数を数えておられた。
第3に、中国へ渡って日本文学研究者を育てたこと。
学会的にいえば、この3つが特筆されるのである。
濱田先生は『読本の研究』で引用された読本の数も数えておられ、とりわけ「絵本○○」という絵本読本が多いことを指摘されていた。

会のはじめに、記念論文集が献呈されたが、その中にある濱田先生の「秩序への回帰―許嫁婚姻譚を中心として―」は、きわめて重要である。ここで紹介したご講演の活字化である。話型論としても一流なのだが、それが近世的であることと結びついているのがなんといってもすごい。借り物ではない、近世という時代に即した分析方法をお持ちであることがわかるのである。
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