2010年01月30日

播磨の俳人たち

 千石船を七艘も所有していた大富豪だったのに遊蕩のために貧しくなってしまったが、生涯自分というものにこだわらず人生を洒落のめし、俳諧にのめり込んだ畸人。姫路城主の訪問を受けながら一人で須磨に月見に出かけたという逸話の持ち主。それが瓢水である。俳号も生きざまをよく表している。俳諧に熱を入れすぎて家業をおろそかにし母の臨終にも会えなかった。「母の喪に墓へまうでゝ/さればとて石にふとんも着せられず」と。

上の話はこのたび刊行された富田志津子さんの『播磨の俳人たち』(和泉書院、2010年1月)に紹介されている。村田俊人さんが、瓢水の追善集『おそねはん』に、若き日の秋成(俳号漁焉)が追悼句を寄せていることを発見されて報告されたことはこのブログでも既報したところである(『おそねはん』とは『遅涅槃』であって、「おそねさん」ではないのでねんのため)。そこで私はまっさきに本書に収められている瓢水論と『おそねはん』の翻刻・解題に目を通した次第。

 青蘿が創設し、明治まで続いた栗の本一門と、井上千山を始祖としてやはり近代まで俳壇を形成した風羅堂一門が、播磨の俳諧の二大俳壇。これを俳諧史に位置付けようとしたのが富田さんの本である。『加古川市史』などの市史に執筆されたものを中心に一書にしたもの。俳壇史研究に貴重な成果がまた加わったことになる。

 富田さんには、大谷篤蔵先生の研究を継承された実証的な本である『二条家俳諧』(和泉書院)がある。俳諧師がやたらに登場する上方洒落本を授業で読んだ時には、学生がよく参照していた本だ。
 
 地道な仕事だが、あまりしられていない上方俳壇の状況を少しずつ明らかにされている。ありがたいことである。
 
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2010年01月28日

人情本事典

『人情本事典』(笠間書院、2010年1月)が刊行された。

同社刊行の『読本事典』の姉妹編であり、国文研の近世後期小説様式プロジェクトの報告書が本に発展したものだと言える。

人情本といえばだれもが天保に刊行された『春色梅暦(梅児誉美)』を挙げるだろう。あれが人情本の典型だと、私なんかも思っていた。ところが驚くべきことに、この本には『春色梅暦』が登載されていないのである。「様式」という点からいえば、『梅暦』以後の人情本は…。と私が説明するよりも、是非ご一読いただきたい。そういうわけで、副題は「江戸文政期、娘たちの小説」である。

知られざる恋愛小説の世界が満載といったところ。明治の恋愛物を考えるときにも看過できない読み物群である。これを機会に、新人情本全集の刊行の機運が高まることを祈りたい。

それから、巻末の人情本文献目録はきわめて貴重である。こういうものはいままでなかったので。
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2010年01月19日

江戸の歌仙絵

 国文学研究資料館で、「江戸の歌仙絵」展が行われている。ちょうどタイミングよく総研大の仕事で国文研へ行ったので、ついでに見てまいりました。

「歌仙」とは平安時代に選ばれた、人麻呂をはじめとする36人の歴代歌人。それを描いたのが歌仙絵である。歌も付されている。今回は、百人一首もふくめて、江戸時代の歌仙絵の変容と創意をたどった、きわめてユニークな展示である。江戸時代に限定という思い切った作戦だが、これが成功している。

 歌仙たちのくつろいだ姿を描いて賛句を付した立圃の『休息歌仙』、なんというアイデアだろうか。後の江戸歌仙絵に大きな影響を与えたという。さらにそれを進めて当世化した、つまりやつした『姿絵百人一首』。完全に浮世絵になっている。その他、アイデア満載の歌仙絵がいっぱいである。

 面白いのは「伏流する歌仙絵」。あの有名な西鶴の肖像も人麿の絵を踏まえているという。図録には非常に詳しい解説が付され、鈴木淳氏・伊藤善隆氏・神作研一氏が論文を書いている。

 研究者とは思われない方が、「楽しかったあ〜」と言って図録を買い求めていたのが印象的であった。

 2月5日まで。10:00〜16:30 日休日は休み。
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2010年01月18日

畸人・上田秋成の世界(附龍馬)

 あの人は変わっている、などとよく言うのだが、考えてみたら、変わっている人ばかりである。大体、大学教員、とくに大学者というのは、大抵どこか変わっているヨネ。

 江戸時代にも変わった人が多い。また変わった人への興味も強くて「畸人伝」とかあるし、「気質物」とかは極端な人を虚実ないまぜに描いている。みずから「剪枝畸人」と名乗る秋成も、『癇癖談(くせものがたり)』という作品を残している。自分の「畸人」性を棚に上げて、そういう人に興味をもち、研究している人もいらっしゃる…。

 ちなみに「畸人」というのは、いまいう「奇人」と違って、知的で常人の理解できない境地に達しており、俗人ではないという意味で高踏的である。だからその「畸人」性も、その人の思想的背景から理解する必要がある。

 江戸時代文学というのに魅かれる動機として、それを生んだ作者の生きざまに興味をもつというケースが少なくない。要するに、人間が面白いのである。私の場合そうでもなかったが、人物研究の面白さにはまるとヤバイろいうのは、なんとなくわかる。年をとるほど、そうなるのかもしれない。それにしても「畸人」研究など、他の時代ではちょっとない発想ではないだろうか。

 「畸人・上田秋成の世界」という連載が、3月から京都新聞ではじまる予定である。7・8月の京都国立博物館での秋成展へ向けての企画のひとつである。執筆陣は、高田衛先生・中野三敏先生ほか。近づいたらまた紹介します。
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 センター試験が終わった。監督をしたわけではないが、

 HBで塗りたるマーク星座図のごとく彼らの未来を告ぐる

 龍馬伝、「ハゲタカ」の大友啓史が今までの大河にはなかった画面を作っている。高知では40%近い視聴率があるとか。関連図書も本屋に並んでいる。文芸春秋増刊くりま1月号に、「東京大学坂本学部龍馬学科」というタイトルで、山内昌之×ロバート・キャンベルの対談。磯田道史の龍馬書簡分析が載っていた。

 龍馬とともに、今日は私も江戸へ行く。


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2010年01月16日

コメントについて

ブログ管理人からのお知らせです。

最近、コメント欄に、いわゆる迷惑コメントがよく付されるようになり、気づいたら削除しているようにしていたのですが、御覧になった方に不快な思いをさせているのではないかと、案じておりました。

そこで、試みに現在、コメント承認制としております。すぐにはコメントが表示されませんが、私の方で確認次第、表示されます。

今後ともよろしくお願いいたします。

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2010年01月15日

イキのいい『雨月物語』

田中康二・木越俊介・天野聡一の神戸大学出身トリオの編になる『雨月物語』(三弥井書店、2009年12月)が出た。

角川文庫、勉誠出版と近年次々に雨月物語のテキストが出ているが、本書は「読みの手引き」を所々に入れている点が特徴。この「読みの手引き」は、読者を深い読みに誘うもので、参考になる論文などを挙げ、どちらかというと問題の指摘を行い、結論は読者にゆだねるという形のスタイルを取っているように思う。

 雨月全編にわたる評釈や鑑賞を織り込んだ廉価(とはいえ1800円だが)な本といえば、ちくま学芸文庫以来、約10年ぶりとなる。1990年以降の最新の研究を取り入れているのが特徴で、編者が若い(田中さんは40代、木越さんは30代・天野さんは20代!)ということ、また秋成プロパーではなく、いい意味で秋成研究に染まっていないことで、かえって論文の選択が新鮮になっていると思う。それに参考文献を、新しい順に並べているのが目を引く。これ、確かにいいですね。

 忘却散人も一応秋成研究者のはしくれであるが、若いころ読んだ論文はよく憶えているのだが、近年出た論文は、あまり憶えていない(これは健忘症の私ばかりではあるまい、さる博覧強記で知られるさる高名な先生も、若いころのことはなんでも覚えているのだが、最近のことはすぐ忘れるとのたまわっていたから)。そういえばこの論文あったなあ、などと感心しながら読んだ次第。最近の論文ほど、そうなのである。

 というわけで、この『雨月物語』、イキのいい『雨月物語』であるといえよう。新鮮なうちに味わうとなおさらオイシイようである。2009年に出た論文も結構取り上げている。編者が各3編ずつ担当しているのだが、微妙に色合いが違う。そこも楽しめる。「そうかなあ」と思うところもなくはないが、新見も果敢に提出されており、秋成研究者も見逃せない本である。

 そういえば本書も没後200年記念出版ということになるだろう。2009年はやはり収獲が多かったということだ。
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2010年01月11日

伊丹のち『研究と評論』

 情報というには遅すぎるので、日記で。伊丹市立美術館で、今日まで「大江戸の賑わい」と題して、幕末明治の浮世絵展をやっています。

中右瑛氏のコレクションを展示しているようですが、3室にわたり百数点の展示で見応えあり。個人的にはささやかな収獲がありました。

おなじみの浮世絵も多かったのですが、見たこともない開国異人絵もあって楽しめました。

柿衞文庫では俳諧刷り物を特集展示。ちょうど大学院の演習で読んでいる作品にモデルとして登場する俳人も出ていてラッキーでした。

 当面、読む余裕がないので、触れるだけ。『近世文芸研究と評論』77号(2009年11月)が到着。ずいぶん充実しているなと思ったら、もともと故谷脇理史先生の古稀記念の企画であったようである。論考15本と、元禄時代俳人大観、さきの近世文学会の貴重書展での解題も載せてくれている。

 池澤一郎氏「越人風雅」の書き出しは、古人・古典軽視への憤りの文章である。

 石塚修氏「『仏説父母恩重経鼓吹』と『本朝二十不孝』」に注目。近世文学における「孝」の問題は仏典の文脈も無視できないというのは、最近、ウチの学生(複数)の研究であらためて教えられているところだったので。

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2010年01月10日

台湾大学図書館和本善本目録

1月9日、大阪大学国語国文学会が開催された。

院生の発表2本と、合山林太郎氏の着任を記念するご講演、蜂矢真郷先生のご退休を記念するご講演があった。

ご講演はいずれも、大胆にして緻密なもので、面白く拝聴した。参加者も例年に比べると多かったようである。

懇親会では国語学の「くうざん」さんの司会の下、蜂矢先生の教え子が次々にスピーチされた。その中で、台湾大学の日本書紀の研究をされている是澤さんが、厖大な和本を所蔵する台湾大学図書館が、和本善本目録をまもなく刊行するということを教えて下さった。中野三敏先生が一人で選書したというからこれは信頼に足るものである。

台湾大学に九州大学関係のチームが何度も調査に赴いていることは存じ上げていたが、この善本目録の話は聞いたことがなかった。団長の松原孝俊九州大学教授のサイトに行って確認をすると、20000冊の中から厳選し、解題を付したもののようである。しかもかなりの廉価で提供されるらしい。是澤さんによれば、3月ごろ台湾大学図書館のHPに入手方法が公開されるという話である。楽しみにしておこう。
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2010年01月06日

異説・日本近代文学

出原隆俊さんの『異説・日本近代文学』(大阪大学出版会、2010年1月)が刊行された。

第一部 「〈内部〉と〈外部〉」では、作者(主人公)の心(内部)から出てくるものと、外から作者(主人公)が啓示や刺激をうけるものという、作品のモチーフや主題、趣向に関わる、対照的な要因について考察する。〈内部〉と〈外部〉という切り口で、これまでには為されなかった作品分析や、発想分析が可能になる。

第二部 「作品論再考」は、『にごりえ』、『高瀬舟』、『心』、『金閣寺』という有名作品の読みに異説を投げかける。作品論を読む悦びを味わえる諸篇といえよう。最後は『妾薄命』という小説を反『舞姫』小説として読む一編。

第三部 「〈典拠〉と〈借用〉」は出原さんの真骨頂ともいえる、意外な典拠や借用の指摘である。たとえば漱石の『心』に、鴎外を借用した部分がある、それも非常に著名なあの文章が・・・・など。

透谷論、一葉論、鴎外論、漱石論で一書を編むこともできる出原さんが、あえて「異説」という切り口でまとめた作品論集。読み応えのある1冊だといえよう。この本格的な一書が定価3780円とは、お買い得である。

追記:本書は誤植(これは版元によるものです)があるために、シールで訂正をするらしく、そのため実際の市販が若干おくれるようです。
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2010年01月01日

謹賀新年

あけましておめでとうございます。

今年は秋成没後200年記念の特別展観「上田秋成」が京都国立博物館で行われます。7月17日〜8月29日の44日間です。

また、懐徳堂記念会100周年の記念行事・記念出版も行われます。

そういうわけで、3年目に入りましたこのブログでまたいろいろ発信してまいりますので、今年もよろしくお願いいたします。

今年の目標は、忘れ物を半減するということです。去年はほぼ毎日でしたが。


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