2015年07月31日

可能性としての古典籍(初日)

 国文学研究資料館の大型プロジェクトに関わる、初めての国際研究集会が、本日と明日、国文研で開催されている。今日は、オープンサイエンスに関わる九州大学名誉教授有川節夫先生の基調講演と、古典籍データベースをめぐる4つの報告、およびパネリストの方々の討論があったが、想像以上に面白かった。
 有川先生の「古典籍共同研究とオープンアクセス」の講演。ちらっと九州弁らしきことばが出てきたと思ったが(「〜しきらん」)。
 オープンサイエンス、シチズンサイエンスという概念で、古典籍データベースの活用の可能性について、いろいろなご提言があり、非常に説得力があって面白かった。NACSISが、全国の図書館の目録入力業務のためのプラットホームになっているということの具体的な説明で、共同構築・共同利用のイメージが鮮明になった。上の人を動かす時は、「これは〇〇で初めてです」というのが殺し文句になるという話、なるほど、なるほど、である。
 オープンサイエンスとは、研究成果の広く容易なアクセス・利用が可能になるということ、現在、科研費研究成果公開促進費に、オープンアクセス雑誌のスタートアップを支援するための応募区分を新設しているということ。日本学術会議でもオープンアクセスの取り組みに関する検討委員会ができているらしい。京都大学では、論文の機関リポジトリによる公開を義務化したという。
 またシチズンサイエンスというキーワードも印象的。市民の中にはすごい人がいることは確かである。このブログにコメントしてくださった方で、江戸文学作品の翻刻をこつこつやってくださっている方がいた。いくらでも利用してほしいんですが、どうしたらよいのかわからない、ということを書いておられたが、今回のプロジェクトでは、そのような市民が参加できる翻刻プラットホームを作るという構想も語られていた。シチズンサイエンスという言葉は、しっかりと私の中には刻まれた。
 さて、続いて「古典籍研究の近未来」というパネル。寺沢憲吾氏が「ワードスポッティング」という研究について紹介。古文書の文字を画像として認識し、検索するシステムの開発。これは国際的には結構歴史のある研究だそうで、1996年にはじまり、近年の学会では17件もの報告があったということである。
 次の橋本雄太さんは、我々のプロジェクトの研究協力者で、8月からは特任研究員でもある。古典籍をめぐる国際共同研究には、現にある制約を解消する必要がある。その制約とは場所的制約と、能力的制約。場所的制約についていえば、古典籍に関する共同研究には研究者間の綿密なコミュニケーションが不可欠であるが、なかなかそれが実現しにくいので、対面でのコミュニケーションに近い環境をWeb上に実現する構想。たとえば共同翻刻。離れたところにいるチーム全員のPCに同じ古典籍画像と進行中の翻字が表示され、一緒に翻字作業を進めるイメージ。スカイプなどを併用して、Web上で「手紙を読む会」が実現できるという話。これは非常に有意義であろう。リアルタイム共同翻刻である。
 ついで北本朝展さんの報告の中で、印象に残ったのは、「利用」だけではなく、「関心」で人を集めることができるということ。昨今の「人文社会科学無用論」が、「ニーズ」をキーワードに語られていたことに対する、きわめて重要な反論根拠になるだろう。かつて立花隆が『宇宙からの帰還』の中で、宇宙開発というのは、天気情報を知るとか、そういう「役に立つ」ということでなされるのではなく、もっと根源的に「宇宙のことが知りたい」という本能的好奇心に基づいてされるべきだし、そのために国家がお金をつけるべきだというような意味のことを言っていたように思うが(これは、ものすごく前に読んだ本の記憶ですから、間違っていたらすみません)、それに通じる発想である。
 報告の最後の永崎研宣さんの報告では、大蔵経データベースが紹介されたが、世界でもトップクラスのアクセスを誇るだけあって、このデータベースはすごい。テキストに、辞典や該当箇所の英訳文参照システムなど、さまざまな注釈機能が付いているのである。新新日本古典文学大系というのができるとしたら、Web上で、この大蔵経のイメージではないか。
 世の中進みすぎていて、私には理解できない用語もあったが、また非常に有益な情報もありで、大いに収穫がありました。
 それにしても、今日はかなり多くの方が参加していた。この事業への関心は広いということで、文科省へ大いにアピールすべきでしょう。、
 個人的にはコニツキー先生と二十数年ぶりにお話ができたのは嬉しかった。
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2015年07月30日

大阪大学URAのメルマガで紹介されました。

このところ、頻繁に情報をアップしております、くずし字解読学習支援アプリの開発を目玉とする我々のプロジェクトが、大阪大学の大型教育研究プロジェクト支援室のメールマガジンで紹介されました。
わかりやすく紹介していただき感謝しております。
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2015年07月29日

くずし字学習コミュニティ?

科研(挑戦的萌芽研究)プロジェクト「日本語の歴史的典籍に関する国際的教育プログラムの開発」が、くずし字解読学習アプリ開発のために行っているアンケートについて投稿したら、ツイートしてくれた方が100人を超えました。本当にありがとうございます。そして実際にアンケートに答えてくださった方も、お昼の段階で160を突破いたしました。「刀剣乱舞」というゲームユーザーの中に、くずし字に関心をもつ人が結構いることもわかりました。我々が開発しているアプリもゲーム的要素を取り入れたり、解説担当をする「ゆるキャラ」を設定することなどを考えています。博物館なんかで読めない字を(あくまで写真撮影可能なところですが)撮影してアップし、アプリユーザーに「この字読める〜?」と聴けたりするとか、「くずし字学習コミュニティ」を作るという構想もあります。みなさまの応援のおかげで、いろいろとアイデアも広がってきました。よいアイデアや、こんなゆるキャラどうですか?などのご提案をお待ちしております!
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2015年07月28日

うーん

『雅俗』14号と、『文学』7・8月号と、『近世文藝』102号のことと、『上方文藝研究』合評会のことを、いますぐ書きたいのだけれど、時間がないので、書きたいということだけ、書き付けておきます。
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2015年07月17日

謀られたる左門こそあはれなれ

『東洋文化』復刊112号(2015年6月)の「謀(たばか)られたる左門こそあはれなれ 『菊花の約』論」を著者の本間也寸志氏よりお送りいただいた。

 この論文は、拙論や拙ブログを引用し、ある程度それをふまえてくださりつつも、拙論を批判し、新たな読みを提示しようとした論文である。本間氏は、予備校で講師をされている由であるが、国文学の文献学方法を以てせず、「近代文学の嚆矢」として「菊花の約」を読む。

 氏によれば、赤穴が左門にもたらした尼子経久の情報は、史実に照らして虚偽である、そのことを踏まえて本文を読んで欲しいと秋成は読者に期待している。宗右衛門の言説を信じて敵討ちをした左門は、実は宗右衛門を美しく誤解していたのである。

 私は、個々の手続きや、立論のし方にいろいろと疑問をもつものであるが、この論文の出現は非常に嬉しいというのが素直な感想である。ここまで拙論を踏まえてくれた論文がはじめてであるということもあるが、何より、秋成を「近代的に読む」という立場に徹して書かれていて、その熱情が伝わってくるからなのだ。私は、菊花の約論を〈近世的な読み〉の実践として書いた(それは論文でも公言している)が、それを踏まえて近代的な読みの論文が生まれたというのは、いわば私の理想がかなったということでもあるからだ。

 本間氏は、書かないではいられないという気持ちで書いている。おそらくは予備校で様々な文章を読み込んで来られたのだろうと思う。こういう論文がもっともっと出てきて、読みの議論をする場が生成することを願うのである。
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2015年07月14日

「和本リテラシーニューズ」創刊

 日本近世文学会編集の『和本リテラシーニューズ』第1号が刊行される。日本近世文学会では数年前から、和本リテラシー普及活動にとりくんでいる。その一環として、このたびニューズレターを発刊した。

 学会員には、近く『近世文藝』に同封して郵送される。無料配布物なので、買うことはできない。しかるべきところに配布されるが、興味のある方は、私か下記メンバーがいくらか配布分を持っているので聞いてみてください。

A5判、カラー全16頁。
表紙には、
「あらゆる領域のヒントが詰まっている古典籍(和本)をどう読み、理解し、活用するか。和本教育の実践記録を伝える冊子、創刊!」
と記される。創刊号には4本の実践記録。小中学生対象で川平敏文氏。大学生対象で塩崎俊彦氏・西澤美仁氏、社会人対象で福田安典氏。ほかにくずし字を読むための書籍紹介、くずし字出前授業の実施のお知らせ、和リテの広場(くずし字教育に関するイベント情報)など。

特筆すべきは、この冊子のゆるキャラ「しみまる」。
「和本が大好きな虫、いや妖精。ヒマさえあれば和本を読んだり、ときには食べてしまうことも。特技はかけっこ。」と紹介されている。

 この冊子は学会の広報企画委員会が制作している。とくに広報企画委員長の神作研一さん、和本リテラシー部門の柳沢昌紀さんの献身的な働きと編集へのこだわり、そして福田安典さん、黒石陽子さんのご尽力のたまものである。私も委員だが、ゆるキャラを提案したくらいでほとんど何もやってない。ゆるキャラも、「くずっしー」という名前を提案したのだったが、「しみまる」の方が絶対にいい。ゆるキャラに関しては無理をお願いしたのに、すばらしい結果を出してくれた笠間書院の西内さんに感謝。

 当面3号までは紙媒体で出す。Webでも読めるようにするはず。いろいろと活用していただくことを願っているし、今後は他の学会とも連繋したいと思うのでどうぞよろしく。
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2015年07月12日

楳図かずお論

『楳図かずお論』(青弓社、2015年6月)
 これしかないという紅白横縞のカバー地に、これしかないというタイトルをゴシック太字で中央縦書。
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 著者、高橋明彦(号半魚)は日本近世文学研究者。
 この著書は、半魚高橋明彦が一番出したかった本であったはずだから、心から慶賀したい。
ここには、日本近世文学者としての高橋の「文学研究とは何か」というメッセージも篭められている。
彼の師匠は高田衛だが、高田衛のメッセージと基本的には同じだと思う。
 21頁あたり。文献学的に作品の元ネタを探し当てるような方法を楳図作品でやって一番気分のわるいのは私であると。ではどういう方法なのか?正直、そこは読んでないからわからないのだが(スンマセン)、ひとりよがりではないはずだ。
 自らヒロイックになっていることをちゃんと客観視できるような人の書いた評論だから、そこは安心して読めるはずだ。そもそも文献学的方法を実はかなりハイレベルで出来る人なのだ。
 
 500頁超で3600円+税とは、さすが楳図かずお研究書である。ちと羨ましい。
 最後に、敬称をつけていないのは、私なりのリスペクトである。
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2015年07月02日

『上方文藝研究』第12号刊行

『上方文藝研究』第12号が刊行されました。

福田安典さんは日本女子大学が購入した『大和八条村孝子聞書』という資料紹介。
神谷勝広さんは、新出の南畝書簡の紹介。
阪大院生の有澤知世さんは、黄表紙と雨月物語の「夢応の鯉魚」の関係についての論考。
加藤弓枝さんは、『近世文藝』掲載予定論文を補う吉田四郎右衛門出版年表。圧巻のデータ。
学振特別研究員の高松亮太さんは、林鮒主年譜の後半。
新稲法子さんは、長岡京正木彰文書の詩稿についての第三回。

6本というのはやや寂しいが、いろいろありまして、ちょっと薄くなってしまいました。来号は100頁くらいを目指します。


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