2015年10月30日

鈴木加成太さん

角川書店『短歌』十一月号に、今年の角川短歌賞が発表されている。鈴木加成太さんの「革靴とスニーカー」。やったな!思わずいいたい。彼はまぎれもなく大阪大学文学部日本文学国語学専修の四回生である。そして、卒論のテーマは、近世演劇の趣向を戯作がどう取り込んだかというもの。つまり私のゼミに所属している。もっとも、短歌は専修の勉強とはほとんど関わらない内容で、日本文学のことは歌われない。「文献」という語は出てきてそれがちょっと嬉しかったが。連作のタイトルは「革靴とスニーカー」で、革靴が就活を、スニーカーが学生生活を象徴しているようだ。やわらかくて繊細な言葉使いで、日常のさりげない場面を、優しく、どこかさびしげに歌う。そうかと思うと、夢の中のシャボン玉のようなつかみどころのない、空想的世界が織り交ざる。

 着てみれば意外と柔らかいスーツ、意外と持ちにくい黒かばん
 少年期への帰路を失くして見る窓に学生街をつつむ夕焼け
 二階建ての数式が0に着くまでのうつくしい銀河系のよりみち
 夕焼けの浸水の中立ち尽くすピアノにほそき三本の脚

彼の世界というものを表現できているように思うし、引きだしを多く持っていると感じる。そしてまだまだ伸びしろがあるように思う。就活に対する違和感が連作のモチーフだ。欲を言えば、もうひとつ何かが足りない。論理のようなものかな。それがないためふわふわしてるが、それがいいともいえる。この辺は好みの問題だ。

 少しだけ彼の今を知る私としては、ちょっと語りたい衝動に駆られるが、まあ我慢しておこう。
そして、私が驚いたのは、次席が、佐佐木定綱氏であったということ。日本を代表する歌人のひとり佐佐木幸綱氏の御子息である。これは鈴木さんが将来歌人として大成したら、たぶん定綱さんも歌壇を引っ張る人になっているだろうから、あの時の角川短歌賞は・・・って語りぐさになりそうですね。
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中尾松泉堂100周年記念展示即売会に行きました

中尾松泉堂の百周年記念展示即売会二日目の29日。ゼミの学生ら数人を伴い、大阪美術倶楽部へ。会場に到着すると、何やら物色中の見慣れたお方の姿が目に入った。同僚のOさんだった。ご覧になっていたのは、懐徳堂関係資料一括。一五八冊の中には、「おおっ」というものが少なからず。しかも伝来を伺うと、これ以上ない筋のよいもの。早速Oさんと密談密談。
見栄えがするといえば、若冲の乗興舟。何度か見たことがあるが、全部を披いているというのは初めて見た。まさに船旅をゆっくり味わえる至福。
で、永代蔵(150万円)を見せてもらっていると、K大のO先生から「会議さぼってきたの?」と言われて、あ、そういえば会議があると思い込んでいて、ブログにも書いたのだが、それは私の勘違いで、幸い会議はなかったのです。来れてよかった。
興味深い貼込帖、戯作の稿本、これは展示物の芭蕉自筆(議論あり)の奥の細道。蕪村・其角など自筆のものも多くありました。
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2015年10月27日

絵入本ワークショップ[

 佐藤悟さんから、ご案内が届きました。すこぶる豪華な顔ぶれ。充実しております。あいにく当日は海外出張。これまでこのワークショップは1回しか参加できていない。まことに残念です。阪大院生の有澤さんも京伝で発表しますが、京伝は3つも発表があるようですね。

絵入本ワークショップ[発表プラン
会場 実践女子大学 東京都渋谷区東1−1−49

12月12日(土)午後
山本嘉孝  「施本における刑罰の絵 ― 山本北山『むかしありしこと』について」 東京大学大学院
山田和人   「ボストン美術館所蔵 竹田からくり絵尽し『国性爺合戦』「からくり九仙山操音曲」について」 同志社大学
松原哲子   「赤本論」 実践女子大学
木村八重子 「国立国会図書館蔵『ふくじん』について」

12月13日(日)午前
日比谷孟俊 「浮世絵に見る新吉原尾張出身者の活動」 慶應義塾大学
岩田和夫  「版木の再利用―初代豊国の役者絵を中心として―」
服部仁   「八代目市川團十郎−幼少期より襲名頃まで− 付 焉馬筆「市川團十郎家譜伝来之記」等」 同朋大学
延広真治  「朝倉無声蒐集「観場画譜」をめぐって」

12月13日(日)午後
鈴木奈生  「京伝作品と浮世絵―〈絵兄弟〉を例に―」 千葉大学大学院
有澤知世  「京伝と中良―京伝作品における異国意匠をてがかりに―」 大阪大学大学院・日本学術振興会特別研究員
神谷勝広  「京伝の飾り枠―『唐詩選画本』『唐土名勝図会』『唐土訓蒙図彙』利用―」 同志社大学
井上泰至  「幕末絵本読本の「古代」」 防衛大学校
鈴木 淳  「シーボルトと『北斎写真画譜』」
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2015年10月26日

前期読本における「世話」

 「上方読本を読む会」というのを長いことやっているのだが、時々、その成果として、メンバーが論文を発表することがある。
 木越俊介さんの「前期読本における「世話」」(『日本文学』2015年10月号)も、そのひとつだが、大きな構想の中で、我々の読んでいる『新斎夜語』の一話を位置付けている。それが「世話」だ。近年、短編読本集の編集意識という観点から、この世話的な話柄のことを考えていたのだが、たとえば「学説寓言」のような系譜として位置付けるというのは、中本型読本を研究してきた木越さんならではで、後期読本までを射程にしているのだろう。
 大きな見通しを持った好論であろう。
 木越さんが取り上げた一編は、最近中村綾さんが、京都近世小説研究会で典拠考を発表したものだ。中村さんのもどこかに発表していただければありがたい。ちなみに私も今年中に『新斎夜語』の一篇を取り上げた拙論を発表する。別話だけど。
 ついでながら、この号に、日本文学協会の大会の予告が載っているが、羅生門のシンポジウムはなかなか面白そうであるな。残念ながら聞けないが。
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国文学論文目録データベースの、あまりよく知られていないこと

同じ国文研ニューズに載る「「国文学論文目録データベース」の、あまりよく知られていないこと」(浅田徹氏)
は、国文学研究者・学生必読。

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日本古典文学学術賞の選評

国文研ニューズ。第8回日本古典文学学術賞の受賞者(同僚の合山林太郎氏)の発表と、内田保廣氏の選評が載っている。
(以下引用)
「清新論的文学観」(中村幸彦)もしくは「性霊論」(揖斐高)が主流として高く評価されてきた江戸後期にあって、それに反するように、なお多くの古文辞を重用する漢詩人が存在した事、詠物詩や遊仙詩など知的、または技巧が重用される作品が多作されていたことなどへの疑問が、明治への長い射程の中で、個々の事例に即して実証的に説明されている。他方、「性霊論」以降の漢詩が徐々に平板に堕してゆく様相も照射され、両々相俟って幕末明治の漢詩文が抱えていた根深い問題点を剔抉している。政治や戦争漢詩など、旧幕時代には題材たりえなかった新時代の諸問題も含みつつ、〈古典から近代へ〉という転換期に漢詩文が有した「意味」が、繰り返し問われている。(引用以上)
この分野は今後急速に展開しそうな気配。合山さんには是非、その牽引者として頑張ってほしい。
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2015年10月24日

くずし字教育プロジェクトのゲリラ的研究会、有意義でした。

昨日大阪大学豊中キャンパスで、くずし字教育プロジェクトのゲリラ研究会、「海外における日本研究の現状とくずし字教育の新たな試み」が行われた。こちらの予想を上回る30名ほどが参加した。
 まず、アプリ開発を中心になってすすめてくれている京都大学大学院の橋本雄太さんが、アプリ開発の現状を報告し、デモを行った。また文字・用例の取集担当の大阪大学い大学院の久田行雄さんが、文字収集と用例収集をどう行っているかを報告した。それに対する質問や意見が非常に参考になるものであった。早速、これらを取り入れて開発をつづけていくこととした。アプリの名称は、KuLA(Kuzushi-zi Leaning Application)と発表された(これは確定ではないが)。案内役は、和本リテラシーニューズのゆるキャラ、しみまるが務める。本日のデモ内容に加え、さらにテスト的要素、達成度確認、くずし字学習コミュニティの形成などの構想が語られ、議論された。
 今回のゲスト、ミシガン大学のジョナサン・ズイッカー先生は、急な依頼にもかかわらず、ご自身の日本における調査と絡めて、くずし字学習の重要性を説いていただき、大変励みになった。このアプリを国際展開していく上で何が重要か、という点につき、きわめて有益なアドバイスをいただいた。
 懇親会も密な交流が出来た。どうやらズイッカー先生には、来年2月に予定されている国際シンポジウムにも参加いただけそうである。 
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2015年10月22日

柿衞文庫の俳画展を見る。

蕪村の新出資料が新聞紙上を賑わわせているが、柿衞文庫でも「俳画の楽しみ」という展示が行われている。昨日午前ゼミの時間を利用して10人ほどで訪問、学芸員根来さんの解説つきで鑑賞した。蕪村の新出短冊「牡丹散りてうちかさなりぬ二三片」というのがあったが、「うちかさなりぬ」の部分を、実際に「うちかさねて」書いているという解説を聞いて、面白いと思った。他にも興味深い俳画が多数並んでいて、実に楽しい展示であった。柿もたわわになっているところで、それを背景に記念撮影も。
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2015年10月16日

くずし字学習アプリ開発中間報告します。

さて、くずし字科研プロジェクトが、突然ゲリラ的に研究会を開催することになりました。
1週間後です。興味のある方で、お時間空いているかたは是非。
そしてご意見を賜れば幸い至極に存じます。

公開研究会(タイトルはすべて仮題です)

海外における日本研究の現状とくずし字教育の新たな試み

◎日時:2015年10月23日(金)16:40〜18:10
◎場所:大阪大学文学部棟 2階 大会議室
参加無料。どなたでも参加できます。
発表@
橋本雄太(京都大学・院)
「くずし字学習アプリの開発の現段階」

発表A
久田行雄(大阪大学・院)
「くずし字学習アプリのための文字・用例収集」

発表B
Jonathan Zwicker(ミシガン大学)
「ミシガン大学における日本研究」

◎主催: 科研挑戦的萌芽研究「日本の歴史的典籍に関する国際的教育プログラムの開発」(代表者 飯倉洋一)
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『楳図かずお論』書評

先に紹介した、高橋明彦さんの『楳図かずお論』ですが、もう少し、第11章のあたり、きちんと読んでコメントしたいと思っていたところ、渡りに船とばかり、西日本新聞から書評の依頼がきました。9月中旬ごろのこと。で、すぐに書かねばならなくなり、9月18日ごろ送りました。安保国会などで新聞紙面も大変になり、掲載が1週間のびたようですが、10月4日に載りました。新聞そのものはまだ私の手許にないのですが、PDFを送っていただいたので、ここにアップロードしておきます。
20151004西日本新聞楳図かずお論.PDF
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2015年10月12日

中尾松泉堂書店100周年

10月28日(水)・29日(木)の両日、中尾松泉堂書店の100周年記念展示即売会・展覧会・講演会が大阪美術倶楽部で催される。

展示即売会への出品もさすがにすごいものが多数出ているが、それとは別に展覧品があって、
「奥の細道」 自筆本
「奈良絵本 住吉物語」 秀頼本
「西鶴 住吉大矢数第1句」 西鶴自筆短冊
「蒹葭堂来翰集」 司馬江漢他
「芥子園画伝 第三集」 蒹葭堂旧蔵
「澄清堂法帖」 中村不折旧蔵
「九段牛ケ淵」 北斎画
が展覧されるそうである。

また記念講演会が予定されている。
10月28日
「中尾松泉堂と私」水田紀久先生 午後1時〜
「狂歌版本百面相」中野眞作先生 午後2時40分〜
10月29日
「古筆の価値」田中登先生 午後1時〜
「淀川の文事と絵事」井田太郎先生午後2時40分〜

水・木というのがねえ。水は午前午後授業、木は午前授業午後会議だし。なんとか考えてみよう。 

展示目録の巻頭は、大阪天満宮の近江晴子さんによる先代中尾堅一郎氏のインタビュー記事(『大阪人』再録)だが、これが面白すぎる。            

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