2016年11月17日

菱岡憲司『小津久足の文事』

 ぺりかん社から菱岡憲司さんの『小津久足の文事』(2016年11月)が刊行された。
 菱岡さんは、私の後輩だが、直接の接点はないのである。
 しかし彼が驚異的な読書家であり、研究者としてすぐれた資質の持ち主であることは、彼のブログを読んだり、彼と読書会をしていた木越俊介さんから話を聞いたりで知っている。なにより私は、読みやすくて志の高い彼の文章のファンである。人柄も素晴らしい。ブログにも一度書いたことがあったと思う。
 当初、馬琴を研究対象としていた菱岡さんは、近年小津久足の研究を精力的に行い、その文事の全貌を明らかにし、はじめて文学者としての久足の評価をきちんと本書で打ち出した。今後、近世文学史を久足抜きに語ることはできない、といっても過言ではないくらいに、見事にその文事の価値を明らかにした。この功績は大きい。
 久足といえば、「馬琴の友人」「伊勢の豪商」「西荘文庫」「小津安二郎の先祖」などのキーワードが浮かぶのだが、その文事については、全く知られていなかったし、知ろうともされていなかった。菱岡さんは、自身の馬琴研究と、師である板坂耀子さんの紀行文研究から、久足の紀行文を読みはじめ、そのレベルの高さに、研究の価値ありとみて、これを広げ深めていき、遂には久足の文事全体に及ぶのだが、久足と菱岡さんの出会いは、必然的なもの、約束されていたものだったんだと、本書を繙けば思わされるのである。二人はとても似ている。

 それにしても、なんと芳醇な文章であろうか。この文章は上手いというような評価では言い表せない。研究者には稀有な、爽やかでかつ豊穣な文章であり、良質な読書体験が醸成したとしか思えない教養を感じさせる文章である。そして何より文学への清らかな信頼がある。小津久足論としての素晴らしさはもちろん、ひとつの作品として、この本は、ある意味で奇跡の達成を示している。
 普通なら「饒舌」と言われかねない長い「あとがき」。ここにも彼の真骨頂が見える。「菱岡憲司の文事」を形作ったさまざまな人の「文事」へのオマージュ。そのあまりの素直さは、全く嫌みがない。私の知っている人がたくさん出てくるのだが、本当にそうだなあと思う。菱岡さんの前では、みな鎧を脱ぎ捨てて文学青年の本性を喜んで見せるんだ。そう思う。多くの人に読まれてほしい本だ。やはり一人の人が渾身の思いで書き下ろした本は素晴らしい。もちろん既出の論集だけれど、書き下ろしの味わいがある本なのである。
 
posted by 忘却散人 | Comment(2) | TrackBack(0) | 情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年11月14日

木越治氏の反論について

 リポート笠間60号に掲載していただいた拙稿「木越治氏へ―「菊花の約」の尼子経久は論ずるに足らぬ作中人物か」に対する木越さんの反論、「飯倉洋一氏へ―作品論のために」が、リポート笠間61号に掲載されている。
 信州大学で開催された日本近世文学会で手にすることができたが、木越治さんとお話することもできた。
 木越さんとは「議論は建設的に」という約束であったので、その方向で、この文章には答えて行きたいと思う。
 反論するようなことは、そんなになく、いくつかの補足と、木越さんの議論を受けての、より大きな問題への展開となる。
 基本的には、近世「文学」における「読者」とテキストの「語り」、そして「作品論」、さらには文学史の問題を考える段階へと話を進めてゆきたいと思う。大体の腹案は出来ているが、当面他の仕事にかからねばならないため、公表は年末ぐらいになると思う。これ以上、リポート笠間の紙面を借り続けるのも、申し訳ないので、笠間のWEBサイトに載せてもらおうかと思っているところである。以上、簡略ではあるが、一応ご報告の必要があるかと思い記しておく。
 それにしても「飯倉洋一氏へ」の活字があまりにでかくてビビった。
posted by 忘却散人 | Comment(0) | TrackBack(0) | 情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年11月04日

学術シンポジウム「真山青果の魅力」

真山青果―近代演劇界の巨人。その人物像と足跡を再検証する学術シンポジウムです。
素晴らしい登壇者が揃いました。
随時、このシンポジウムについて、このブログで発信してゆきます。

眞山青果学術シンポジウム
「真山青果の魅力―近世と近代をつなぐ存在」

日時:12月3日(土) 14:00〜18:00
会場:学術総合センター・一橋講堂(千代田区一ツ橋 学術総合センター2F)
主催:星槎グループ
協力:松竹・国文研

私たち日本人にとって、テレビなどでおなじみの「忠臣蔵」のスまトーリーに、大きく影響を与えた新歌舞伎『元禄忠臣蔵』の作者眞山青果。歌舞伎・新劇・新派に関わった巨大な劇作家であり、西鶴研究者としての足跡も忘れられません。近世から近代への断絶と継承を象徴する存在であった眞山青果の魅力に迫ります。

14:00 開会・主催者挨拶 井上 一 (星槎大学学長 星槎ラボラトリー)
   来賓ご挨拶 安孫子 正 (松竹株式会社 取締役副社長)他
14:25 趣旨説明 飯倉 洋一 (大阪大学教授)

14:30 基調講演「ジャンルを超えた劇作家としての青果 ―多彩な人物像―」
   神山 彰 (明治大学教授)
(休憩)
15:30 パネルディスカッション
「眞山青果の翻案作品について ―太宰治作品との比較から―」
丹羽 みさと(立教大学等非常勤講師)

「文壇と劇壇 ―青果の多彩なる人脈―」
青木 稔弥 (神戸松蔭女子学院大学教授)

「青果の西鶴研究」 広嶋 進 (神奈川大学教授)
コーディネーター 日置 貴之 (白百合女子大学講師)
(休憩)
16:50 全体ディスカッション 神山 彰、広嶋 進、青木 稔弥、丹羽 みさと
コーディネーター 日置 貴之

17:50 まとめ 眞山 蘭里 (劇団新制作座代表)
    鬼頭 秀一 (星槎大学副学長)
以上

ご期待ください!
関連企画として、国文研でも「真山青果旧蔵資料展、その人、その仕事」を開催!
posted by 忘却散人 | Comment(0) | TrackBack(0) | 情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする