2017年02月23日

表記の思想

入口敦志『漢字・カタカナ・ひらがな 表記の思想』(平凡社、2016年12月)。
すでに、いくつかのレビューもあり、好評のブックレット。国文研が出す〈書物をひらく〉シリーズの2冊目。入口さんは、このごろ大きなテーマのシンポジウムでよく発表やコメントを依頼される引っ張りだこの研究者。とくに最近は、東アジアの文献書誌学についても見識があり、間口が広い。

本書は、漢字・カタカナ・ひらがなの、どの表記を用いるかは、思想の問題だということを説く。

この観点は重要である。私も「仮名読物」なる造語を近世散文史に使うことを提唱したことがある。
(科研報告書『「奇談」書を手がかりとする近世中期上方仮名読物史の構築』2007年)

だから、非常な共感をもって本書を読むことが出来た。
しかし、入口さんの扱う文献は縦横無尽である。そこが真似できないところである。国文研でビッグデータを仕事として扱ってきた入口さんは、巨視的な観点からの提言を最近多くなさっている。国文研で提供される予定の30万点の歴史的典籍の画像を全部見ることは可能だとし、そこから生まれる研究テーマについて提言されたことは記憶に新しい。
今回の本も、『古今和歌集』、『平家物語』、医学書、そして山鹿素行・本居宣長と自在に操る。

さまざまなアイデアが満載の知的冒険の書といえるだろう。一般向けにライトなタッチで書かれているところも配慮が効いている。
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2017年02月21日

KuLAに清き一票を!

デジタル人文学アウォーズ2016に、くずし字学習支援アプリのKuLAがノミネートされています。
みなさま、どうぞ清き1票をお願いいたします!。25日までだそうです。 http://dhawards.org/dhawards2016/voting-announcement-japanese/
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2017年02月09日

『欧州航路の文化誌』

人情としてわかっていただけると思うが、昨年の滞独生活以来、テレビをはじめとするメディアで、ドイツいやヨーロッパのことが出ていると、以前よりもぐっと引き込まれるようになった。他愛のない話であるが。日本文学にひきつけると、「洋行日記」「滞欧日記」のたぐいに興味をもつようになっている。江戸時代でいえば、「文学における異国情報」にである。
 そういう折り、同僚の橋本順光さんから鈴木禎宏氏との共編著『欧州航路の文化誌 寄港地を読み解く』(青弓社、2017年1月)を賜った。これはもう我慢できない。パラパラとめくる。面白そう。橋本さんの序章「欧州航路の文学―船の自由化と紀行の自国語化」を拝読。橋本さんといえば立て板に水のように途切れなく論理的なコメントのできる方で、いつも感心しているのだが、文章にもそれがよく現れている。
 航路の自国化と自国語化の問題。これは今日でも、ルフトハンザでいくか、全日空でいくかで、我々にとっては大違い(ちなみに、両方経験してますが)というのでわかるが、明治期に、1か月の船旅をするに外国船ではなく、船も日本のもの船員も日本人となったことが、いかにストレスがないか。まさに感覚として、これは航路の自国化なのである。それを河東碧梧桐などの言説からあぶり出す。
 さらに虚子や和辻哲郎の述懐、官立大学助教授が洋行でハクをつけて帰国するシステムなど興味津々、身に
つまされながら拝読。

 以下引用。
 欧州航路は、イギリスの東洋航路を徐々に逆行する形で成立し、半官半民の日本郵船は、「商戦軍」の先発隊として、船、船員、船長を自国化していった。この現象は、大学教官が洋行を経て自国化していったことと連動するものであり、同時に、東洋の権益への参入にほかならなかった。その点で欧州航路は、まさにイギリスの東洋航路を逆転したのである。そんな欧州航路から、熱帯季語を含め世界を俳句で表象するシステムを作り上げた高浜虚子、その航路を「湿度の弁証法」と要約して『風土』という文明論に練り上げた和辻哲郎、川路寛堂や渋沢栄一以来の洋行体験を国語教材に集約した井上赳は、幾度も上書きされ、積み重ねられてきた欧州紀行の自国語化のひとつの帰結と言えるだろう。つまり欧州航路の記録は、船長と高級船員の自国化、洋行による大学教員の自国化(飯倉注、外国文化を教えるお雇い外国人教師から洋行経験の日本人教師へ)、世界表象の自国語化が三位一体となった存在なのであり、それらの文脈から広義の文学として読み直されるべきものと言えるだろう。

 ちなみにあとがきによれば、「西回り」の世界一周によって形成される世界観と、「東回り」によって形成されるそれとの間に、大きな違いがあるという。それが「寄港地」(の順序)の問題である。これから各論考を拝読する楽しみがある。
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『近世文学史研究』

 ぺりかん社から『近世文学史研究』というシリーズが刊行される。全3巻完結。17世紀・18世紀・19世紀を、それぞれ数名で論じるという形になる。ぱっと見、『江戸文学』後継誌風の装丁だが、雑誌ではない。
第1巻の「十七世紀の文学 文学と歴史・思想・美術との関わりを通して」がこの1月に刊行された。監修は鈴木健一さん。以下私の独断的なまとめ方だが、歴史学からの提言を高埜利彦さん、絵画と和歌を主題として鈴木健一さん、医学と文学を主題として福田安典さん、芭蕉の編集力を主題として佐藤勝明さん、刊行軍書から西鶴を読む井上泰至さん、17世紀の浄瑠璃制作方法について黒石陽子さん、そして近世文学史の連載を木越治さん、という、第一線の方々が並ぶ。内容について、もうすこしちゃんとした説明をしなさいという声も聞こえないではないが、ともあれ店頭でご覧下さい。電子書籍もあるようだ。
 このシリーズは6月に18世紀、11月に19世紀が出る予定で、それぞれ私とロバート・キャンベルさんの監修となる。かなり前から準備をしていたこともあり、18世紀の原稿はそこそこ集まっているようである。17世紀に負けない論客を揃えましたぜ。17世紀同様、学際的な線で考えているので、日本史・思想史・美術史・芸能史からの論考もお願いしているところである。たぶん春の学会会場には並ぶのではと思う。
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2017年02月04日

『アプリで学ぶくずし字』の刊行迫る!

『アプリで学ぶくずし字 くずし字学習支援アプリKuLA(クーラ)の使い方』(笠間書院、2017年2月)が、科研挑戦的萌芽研究「日本の歴史的典籍に関する国際的教育プログラムの開発」、および大阪大学文学研究科の「国際古典籍学」クラスターの成果の一部として刊行される。すでに見本が出来、関係者には順次送られるはずである。ネット予約も可能。2月10日ごろには書店に並ぶ予定。
 このプロジェクトで私たちは、とくに海外の日本研究者者のくずし字学習を支援を目指して、「くずし字学習支援アプリKuLA」を作成・公表した。研究メンバーの議論と、テスターの方々のご意見、そしてSE橋本雄太氏の類まれな設計能力が生んだすばらしいアプリである。2016年2月のリリース以来、5万ダウンロード超を記録している。アプリは歴史的典籍を利用する理系研究者や、くずし字を読みたいと思っている一般の方にも利用され、我々も驚く広がりを見せている。KuLAをさらに有効に活用していただくことと、我々の研究の意義を社会に発信する目的で、本書は企画されたのである。
 本書の内容は、当科研で開発したくずし字学習支援アプリKuLAの使い方の解説(バージョンアップ版に対応している)、および、KuLA開発の経緯(「KuLAの誕生」と題して「あとがきにかえて」で詳細に記している。ちなみにこれはジャズの某名盤をもじっているのだが)。KuLA開発に協力してくれた方の感想、開発チームメンバーの活動・実績報告、本科研や国文研・文学研究科が主催した2016年2月の国際シンポジウム「読みたい!日本の古典籍――歴史的典籍の画像データベース構築とくずし字教育の現状と展望―」での招待発表者の発表内容の概要を一般の方にわかりやすく記したものである。
 さらに、くずし字を学ぶための入門的な書籍やサイトの紹介、アプリの中では解説しきれなかった「読む」機能に登載した資料「しん板なぞなぞ双六」の注釈などを付している。
 版元の内容紹介はこちらである。
 当初の予定をかなりオーバーする92頁に、情報満載である。KuLAと完全連繋している「みんなで翻刻」の紹介もある。ネットでの試し読みもできるので、ご覧いただければ幸いである。
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