2017年05月20日

『柏木如亭詩集1』

 揖斐高先生訳注の『柏木如亭詩集1』が平凡社の東洋文庫の1冊として刊行された。奥付は2017年5月。
すでに岩波文庫から『詩本草』と『訳注連珠詩格』がやはり先生の校注で出ており、ますます如亭の詩が読みやすい形で提供されたことになるのは、ありがたい。収められるのは、『木工集』『吉原詞』『如亭山人藁初集』(以上1)、『如亭山人遺稿』(以上2)である。
 如亭に懐かしさを感じるのは、私が大学院に入ったばかりの中野三敏先生の演習が、『五山堂詩話』だったということである。それまで日本の漢詩文にほとんど触れていなかったが、五山をはじめ如亭・詩仏ら江湖詩社の詩人たちのことを、調べたり、作品を読んだりしていくなかで、近世日本の漢詩文というものに入ったということがあるからである。今関天彭翁の論文も古い雑誌を探索したり、師匠に貸していただいて読んだ(これも、今は揖斐先生が編んで東洋文庫に入れておられるが)。揖斐先生の論文も当然読んだ。
 如亭は、中でも、近代人の感性にフィットする。詩魔に魅入られて、実生活をないがしろにする。詩を切り売りして全国を放浪し、年老いても恋愛体質。『木工集』『吉原詞』をはじめとする如亭の詩は、そういう如亭の実像と虚像のイメージ、そして喩としての詩の魅力を存分に堪能できるものである。
 如亭研究の第一人者である揖斐先生の校訳で読めるのは、まことにありがたい。続編では年譜も掲載されるということである。
 
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2017年05月11日

チェコの日本研究の現状

 今日は、チェコのカレル大学(プラハ)の日本学科長で、現在大阪大学に滞在して研究を進めているヤン・シーコラ先生の「チェコにおける日本研究の現状」というお話を聞いた。小さな会だったが、活発な質疑が交わされた有意義な会だった。シーコラ先生は、近世から近代の日本の経済思想史がご専門であり、「懐徳堂及びその周辺における経済思想の成り立ち ― 「利」をめぐる議論を中心に」(『懐徳』第75号、2007年)という論文もある。かつて、懐徳堂記念会で講演していただいたこともある。
 東洋学において、国際的には日本から中国に学生の関心が移りつつあると言われている中で、カレル大学では日本研究の人気が逆に高まっているという。約20人の狭き門に150人から200人が入学を希望するという状況。中国学は逆に・・・・。当然、日本語や日本についての知識のレベルが高い学生が入ってくる。そこで、学部時代は日本語漬けともいえるようなカリキュラムで、徹底的に日本語を鍛えるのだとか。卒業試験は、辞書なしで、たとえば日経新聞を読ませ、訳をさせるようなレベル。常用漢字は全部覚えておかねばならないのだと。
 学生の関心は、90年代までは、伝統的文化に関心があったが、近年は現代日本の政治・社会・経済・ジェンダーなど実用的な側面に移ってきていた。しかし、最近になって、再び伝統文化へのUターン現象が起こっているのだとか。これは前近代をやっているものにとっては有り難いことである。理由はいろいろあるだろうが、ざっくりいえば、学生のレベルが高くなっているので、より深く知ろうとするからなのだとか。大学院の試験は、かなり深いテーマが出され、3時間で2000字の論文を書くのだとか。このような学生の日本に対する知識は、翻訳が充実するなど、条件が整備されているからだということである。おそらくカレル大学の日本学科の学生は、日本の日本文学を専攻している大学生の日本語運用能力や知識において、さほどわらない力を持っているのではないかと予想される。それはハイデルベルク大学で教えた経験からも十分考えられるのである。変体仮名・くずし字・古文書学などの講座も開講されているので、歴史的典籍を扱う学生は、これらを読むのが普通だということである。
 他にも教育や研究のシステムの問題について、詳細な説明をきくことができた。チェコの日本研究においては、日本語で書かれた論文は、業績にカウントできない。もちろんチェコ語でもだめで、英語でないと国際的に認知されないから業績として扱わないのである。少なくとも現実はそうである。海外の大学の研究者と連携するという前提は、日本研究においても、「英語を使えるということ」になっていくのは流れとしか言いようがないだろう。もちろん、海外の日本研究者が「日本語を使えるということ」は、絶対的な条件であることもまた確かである。しかし、彼ら、とくにチェコの学生に関しては、その使えるレベルがかなり高そうである。
 というわけで、海外の日本研究の状況をまた知ることができた。備忘として記しておく。私の主観的なまとめなので、その点ご留意ください。
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2017年05月04日

様式と営為

 『近世部会誌』11号。日本文学協会近世部会。2017年3月。この研究会は京伝の読本を読み続けている。「主題」を仮設して読む作品論に違和感があることを、編集後記で風間誠史さんが述べている。主題というよりは趣向、構想というよりは趣味的な発想であると。「読本こそ、最もとりすました遊戯であった」との山口剛の言を引き、「一番ぴったりくるのである。とはいえこれは江戸戯作を現実逃避の産物とする「近代」的な言説で、それを乗り越えようと研究者は苦心してきたのである。しかし、今や老若男女がこぞってポケモン探しに街なかを徘徊しており、「遊戯」は「現実」そのものになっている。「遊戯」をそれとして論じることが現実逃避とは別の意味を持つのではないか?」と。
 「現実」(真面目)と「遊戯」を二項対立で捉えるのが近代で、江戸時代はそうでなかった、しかし今や近代も変わって、「遊戯」が「現実」そのものになってきたのだと。
 一方、同氏は高木元氏の文学研究観に違和感を表明する文章を書かれている。高木氏は一貫して、「文学的価値」を云々する文学研究観を斬ってきた方で、「様式」を重視し、これを歴史的に位置付けることを目指しておられると私は見ている。これに対して「営為」を重視するのが風間氏か。
 浜田啓介先生のご本に「様式と営為」を謳う名著があることを思い出す。少し話がずれてくるが、近世の写本の意味は、様式だけでは絶対に解けない。風間さんの引用する高木さんの文章では、近世文学の対象は刊本のみであるような把握をされているかに見えるが、写本史を考えたら、当然のことだが、近世が圧倒的に資料が残されているわけだから、これを無視することはできない。もっとも一般的には近世は「出版の時代」で、写本研究は主流ではない。しかし、私見によれば、写本研究は非常に重要である(2010年の秋成展をきっかけに、秋成の文学を考える時にも写本の意味が重要だと考え、その一端を『上田秋成―絆としての文芸』大阪大学出版会、2012に書いた)。そして、写本はどの写本であれ、たった1部。写本をつくる書写者の営みを考えずして、写本論は成立しない。そして、実は版本にも、それが当然あるのである。版本が版本としてのアイデンティティを持つのが、「様式」の確立だとすれば、それ以外の部分には「営み」があるのは当然だと思う。
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2017年05月01日

ニコニコ超会議に参加しました。

4月30日。ニコニコ超会議「超みんなで翻刻してみた」に参加しました。私は「しみまる」の生みの親、笠間書院の西内さんと、くずし字の初歩と、くずし字学習アプリの紹介をしました。生放送がされていて、1万人ほどが視聴されたようです(これは1日でってことですが)。他にも、先生方の講義がいろいろありました。
初めての幕張メッセ。初めてのニコ超。いたるところにコスプレイヤー、ゲーマーがいて、私達のブースの後ろを、なま宮崎駿が通る!など、自分が被り物をしていても、全く恥ずかしくないこの雰囲気。ただ想像以上に騒然としていて、自然に声を張り上げていたのか、ノドがガラガラになりました。しかし、何かもう一度来たいような気持ちもかなりありますね。大体様子もわかったので、準備の仕方ってのこうすりゃいいのかなってわかったしね。我々のブースは、ほとんど唯一の(となりに「日本うんこ学会」がいましたが)学術的なもので、ノリもゆるいものでしたので、逆に異彩を放っていたかもしれません。ともあれ任務終了。DSC02424.JPG
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『心の中の松阪』

大阪大学名誉教授の柏木隆雄先生から、『心の中の松阪』(夕刊三重新聞社)をいただきました。
夕刊三重新聞に連載されたものの単行本化で、柏木先生の幼少のころから高校生の頃までの思い出が、豊富な写真とともに綴られています。先生のお人柄や、周りの方々の親切さ、松阪という町の暖かさがよく描かれているエッセイです。
柏木先生に御礼を申し上げたところ、次のように伝言を賜りました。

読んでみようと思われる方があれば、夕刊三重新聞社の 富永朋子さん宛て tominaga@yukanmie.comにメールで、著者(柏木)の紹介と書いていただければ、定価1800円(+税)を、2割引の1500円(税込み)で購入でき、そちらから送って貰えます(送料はスパーレターで180円)。

と。 
なかなか店頭に並ぶことのない本のようですので、ご利用ください。
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