2017年06月30日

河村瑛子さんの「かたち」考

国語国文つながりで、同じ『国語国文』(2017年5月)に、河村瑛子さんの「「かたち」考」が載る。
河村さんは名古屋大学の塩村耕さんの門下だが、現在京大助教。非常に優秀な方で、人柄も温和。
塩村さんから受け継いだ『類船集』を用いての語彙考は、今やお家芸と言うべきで、これがまた京大の学風と親和性が高いのである。今回の論考は、芭蕉の用いる「かたち」の意味を、明晰に論じたものだが、やはり『類船集』から入り、「かたち」という語彙の豊かさに気づかせてくれる。そう、「かたち」という語彙は、文学の普遍的な問題を考えるのにつながるので、単なる語彙考に終わらないのである。
ただ、願わくば、冒頭の『笈の小文』に戻って、その読解を見せていただきたかったが、それは読者への宿題だろうか。
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藤原英城さんの論文2編

優秀な日野龍夫門下の中でも、田中則雄・藤原英城・山本秀樹の三人は、大体同世代で、勝手に「日野門下三羽烏」と呼んでいる。それなりに交わりがあって、田中さんとは読本の研究会でご一緒したし、山本秀樹さんとは、秋成研究で議論を交わしてきた中である。そして藤原英城さんだが、京都の小説研究会で時々ご一緒するくらい・・・、ではなく、思わぬところでご一緒したことがあった。一つは私がK賞を頂いた時に、同じ賞を前年に取られた藤原さんも来てくださって、福田安典さんとともに2次会まで付き合ってくださったことがある。また、詳細な経緯は忘れたが、京都府立大学が韓国の研究者を多く招いて、寓言に関する研究会を催したことがあり、ロバート・キャンベルさんと、私が誘われて、参加したことがあった。その懇親会で話が展開して、今度は韓国の学会で「寓言」を特集するからということで、中国・韓国・日本の研究者が集まったのだが、日本からは藤原さんと私が招かれて、確か2泊3日した。向こうが用意したホテルの部屋がなんとツインだったので、かなり濃い記憶がある。初日は外に飲みに行き、2日目は部屋飲みした。そして帰りの仁川空港で、荷物を預けようとした藤原さんに、「その荷物だったら機内持ち込みできますよ」と要らぬ助言をしたために、藤原さんが手荷物検査口にその荷物を置き忘れて、探し回ったというアクシデントまで起こってしまった。また藤原さんの愛弟子の中村綾さんも研究仲間で、阪大で開催している読本の読書会に来てくださっている。この頃、おめでたいことがあったようである。
 と、前置きが長すぎたが、藤原さんの「恋文のゆくえー『好色一代男』巻1−2をめぐって」(国語国文 2017年5月)は、挿絵の「下げ髪の女」に注目し、同話に『薄雪物語』挿絵が示唆され、議論のあった「下げ髪の女」が世之介のターゲット「おさか」であると論証する。周到で説得力のある論である。
 同じく藤原さんの「二代目西村市郎右衛門の出版活動−その登場から享保年間までの動向−」(京都府立大学学術報告 人文68 2016年12月)は、私にとっては有難い報告。京の西村市郎右衛門の江戸出店西村源六は、佚斎樗山や常盤潭北の著作の出版をプロデュースしたと見なされるセンスのいい本屋で、私の奇談研究の原点になるキーパーソンの一人なのである。その源六の登場を、20数年前の私の調査では、享保11年か12年としていた記憶があるが、享保4年9月にすでにでていることが、藤原さんの調査で判明している。この源六についても、また別稿を用意されるということで大変楽しみである。
(前置きの方が結局長かったっす)

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