前エントリーの『浮世絵細見』で、浅野氏自身が「長い間疑問であった」のが、「絵草紙屋の店頭で買った浮世絵は、どうやって渡されたのだろうか」ということ。浅野氏はこれについて、鈴木俊幸氏が、「くるくると筒状に丸めて掛紙に包み、その上に細長い紙片を廻して合せ目を捻って留めて客に渡される」としていたことに驚いたと、終章で書かれている。本文の160ページあたりに、鈴木氏の説が紹介されている。
その鈴木俊幸氏編の、『出版文化のなかの浮世絵』(勉誠出版、2017年10月)が刊行された。英国ノリッチのセインズベリー日本藝術研究所でおこなわれたワークショップを基にした本である。中国絵入本の翻案についての研究、都名所図会の書誌的研究、錦絵の成立についての再検討、春信の座鋪八景の考察、巨匠浮世絵師を江戸時代に即して評価しなおす試み、浮世絵の流通に関する考察と資料紹介などであり、いずれも実に興味深い。以上、浮世絵繋がりで3連続投稿しました。
2017年10月29日
浮世絵細見
前エントリーの北斎展を企画したのは、大英博物館のティモシー・クラーク氏と、あべのハルカス美術館の浅野秀剛氏。クラーク氏とは、20数年前、中野三敏先生をはじめとする10人ほどのグループで訪英したさいにお世話になり、同窓のロバート・キャンベル氏と、大学時代にツーショットで写ったMENSCLUBだったかの男性ファッション雑誌を見せていただいたこともある(二人とも超イケメンで。クラークさんは最近ぐっと貫禄が)。山口県立美術館で催された大英博物館展の際にもお会いした。クラーク氏の研究方法が、きわめて緻密な実証的方法だったのに驚かされた。そのクラーク氏と、浮世絵研究のエースともいえる浅野氏がタッグを組んでの北斎展だったから、これほどのインパクトをもたらしたのだろう。
さて、その浅野秀剛氏の『浮世絵細見』(講談社選書メチエ、2017年8月)は、浮世絵研究の面白さを伝えようとする、これまでになかった一般書である。浮世絵の料紙や大きさ、浮世絵版画の包紙、異版の先後、絵半切・絵入折手本など、興味深いトピックが満載で、「浮世絵を研究したくなる」(終章は「浮世絵研究をしたくなった方へ」と題される)。と、同時に、近世小説と呼ばれる分野の研究は、絵を無視しては成り立たないな、と改めて反省させられる。それは同時に、浮世絵の対象である演劇も合わせ考えねばならないことも胸に刻まされる。
そういう反省は自分の胸にしまうとして、本書はマニアックでレベルの高い内容ながら、スリリングで楽しく読める本でありました。
さて、その浅野秀剛氏の『浮世絵細見』(講談社選書メチエ、2017年8月)は、浮世絵研究の面白さを伝えようとする、これまでになかった一般書である。浮世絵の料紙や大きさ、浮世絵版画の包紙、異版の先後、絵半切・絵入折手本など、興味深いトピックが満載で、「浮世絵を研究したくなる」(終章は「浮世絵研究をしたくなった方へ」と題される)。と、同時に、近世小説と呼ばれる分野の研究は、絵を無視しては成り立たないな、と改めて反省させられる。それは同時に、浮世絵の対象である演劇も合わせ考えねばならないことも胸に刻まされる。
そういう反省は自分の胸にしまうとして、本書はマニアックでレベルの高い内容ながら、スリリングで楽しく読める本でありました。
晩年の北斎
少し前に北斎展を見に行った。約40分待ちだった。今頃はもっと長くなっているだろう。
これは何時間まっても見る価値がありますね。
肉筆が多く、これまで見たことのないものがいくつもあって、実によかった。
特に最晩年の、神がかった絵は、不思議な感覚が襲ってくるようだ。
「流水に鴨図」は特に感服。自身の中の未知の感覚が呼び覚まされるような、画との交信が可能。
あべのハルカスのみに出ているという「胡蝶の夢図」の構図と表情の玄妙。
圧倒的な滝の質感が迫る「李白観瀑図」。
そして、これまで感じたことのない、安楽な死のような超絶不可思議な世界を体現する「雪中虎図」。
見れば見るほど、「宇宙の奥」に吸い込まれるような、板絵の「濤図」。
まさに心技一体の芸術である。とてもいいものを見せていただいた。いまだに昂揚が冷めないくらいの。
世界で評価されているのも宜なるかな。
これは何時間まっても見る価値がありますね。
肉筆が多く、これまで見たことのないものがいくつもあって、実によかった。
特に最晩年の、神がかった絵は、不思議な感覚が襲ってくるようだ。
「流水に鴨図」は特に感服。自身の中の未知の感覚が呼び覚まされるような、画との交信が可能。
あべのハルカスのみに出ているという「胡蝶の夢図」の構図と表情の玄妙。
圧倒的な滝の質感が迫る「李白観瀑図」。
そして、これまで感じたことのない、安楽な死のような超絶不可思議な世界を体現する「雪中虎図」。
見れば見るほど、「宇宙の奥」に吸い込まれるような、板絵の「濤図」。
まさに心技一体の芸術である。とてもいいものを見せていただいた。いまだに昂揚が冷めないくらいの。
世界で評価されているのも宜なるかな。