2018年10月14日

文学地理学入門


 10月11日、私の授業の時間を使って、ユーディット・アロカイハイデルベルク大学教授の講義「文学地理学入門」が行われた。
現在、ハイデルベルク大学・国文研・大阪大学が共同で進めている「デジタル文学地図」の理論的な土台である「文学地理学」。なんとなく、わかったような気でいたけれど、講義を聴くことで、その理論・意義・歴史などが、私の中でかなり整理された。学生にとっても、とても刺激的であったようで、みずからの研究に照らして、色々な質問も出た。
 その理論のベースは、チューリッヒ大学のピアッティ・バーバラ氏の『文学の地理学−場面・ストーリーの空間・想像された空間』という著書である。原題はPiatti, Barbara: ”Die Geographie der Literatur, Göttingen” 2008。残念ながら邦訳はないようなので、是非これは出版していただきたい。
 ヨーロッパの文学地図というプロジェクトのウェブサイトもある。
  もう1冊、フランコ・モレッティの”Distant Reading”こちらは、邦訳あり。邦題は『遠読』。何百冊もの英国小説を地図に載せていると。どの場所が、文学でよく描かれるのか?をはじめとする遠読ならではの分析が可能。この本は私も知っていた。
 日本にも前田愛氏による『都市空間のなかの文学』という、文学空間に注目した名著がある。前田愛の分析は、作品によって方法が違うようにも思ったが、文学地理学は、多くの作品の場所を地図に載せるというところが、今の時代ふうである。ピアッティ・バーバラ氏は、スイスの山中、プラハ、北ドイツの海辺という場所をとくに選んで分析しているという。
 歌枕を日本地図に載せ、その歴史的奥行きと空間的分布を分析する「デジタル文学地図」も、複数の古典和歌・古典作品からピックアップして、その地名・場所の意味を考えるものである。
 文学地理学の射程は大きく、場所・地域の描かれた方、ひとつの作品の中での場所をベースにした分析、虚構空間と世界感覚など、いろいろな研究方法が浮上する。無意識に使っている方法もあるな、と伺いながら考えたところである。
posted by 忘却散人 | Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする