2019年10月08日

滝川幸司『菅原道真』

滝川幸司さんの『菅原道真』(中公新書、2019年9月)を拝読。
もし、書評か紹介を書くことになったら、「文学部出身の実務官僚」とタイトルをつけたい。
つまり、道真とは今で言えばそういう人らしい。
氏育ちがものをいう平安時代において、異例の出世をした人物。漢詩人というよりも官僚としての姿を描き出す。当時の政治社会の中で、どういう存在だったのかを解き明かそうとする立場だ。
儒家とは儒学を基礎とした実務官僚であると明快に説明され、あらためて納得。そして当時の社会で漢詩を詠むとはどのような行為かという問いが、全編にわたって貫かれている。
普通なら劇的に描きたくなるだろう太宰府左遷についても、なぜそうなったのかを冷静に、淡々と述べていく。それが逆に迫力を持つ。しかし所々に、やはり滝川さんの研究成果が鏤められているのがわかる。なにやら小さい活字で羅列される参考文献の多さにも圧倒される。まさに滝川さんは、学者として誠実なのである。
漢詩に訳をつけているのだが、原文を残して、「可憐(ああすばらしいことだ)」とルビを施すのは、最近の漢詩文研究では普通なのだろうか。これがとても斬新で巧みだと感心した。
その滝川さんを、10月から、わが日本文学研究室の新しいスタッフとしてお迎えした。頼もしいこと、この上ない。

余言だが、文学部出身の実務官僚をどんどん出してゆくような教育をこれからはしていかなければならないな、と改めて思う。ドイツで会った文学部出身の外務省職員、すばらしい方だった。こういう人に官僚になってほしいと思ったものだった。
posted by 忘却散人 | Comment(0) | 情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする