西鶴をはじめとする近世文学研究の第一人者であり、歴史小説家でもある中嶋隆さんの長編第3作『補陀落ばしり物語』(ぷねうま舎、2020年1月)を読了した。私の中では、現時点での中嶋さんの代表作と言ってよいと思う。元禄大地震・宝永大地震・富士山噴火という立て続いての大災害の続いた時代に生きた、名もない人々の信仰の物語だが、読ませる。途中から止まらなくなった。テーマは魔仏一如の人間の心?。そして、隠れたテーマは、東日本大震災で犠牲になった人々への鎮魂か。いや勝手な読み方ですが。
それにしてもなぜここまでリアルに江戸時代の名もない人々のリアルを描けるのか。第1作では、さすが研究者の小説と思ったが、本作では中嶋さんの内側に魔仏一如の心があるからではないかと疑っている。
敢えて言えば、大団円に向けての展開がやや予定調和だったかなと思う。そこに何かビリビリっと破れるような展開があればなどと、勝手なことを言ってしまうのであった。しかし、これだけ小説に集中できたのは久しぶり。素晴らしい作品をありがとうございます。