2020年06月12日

好古趣味の歴史

 小林ふみ子・中丸宣明編『好古趣味の歴史』(文学通信、2020年6月)。江戸時代後期から明治にかけて、古き江戸を慕う「趣味」が、ひとつの流れをつくる。それが、はじまるのが18世紀あたり。江戸開幕から100年以上たってからである。この本では古き江戸という時と場所に限定して、「好古」の営みのさまざまな事例を紹介し、論じた論文集である。「古き江戸をいかにたずねたか」「江戸東京流の記憶のとどめ方」がテーマである(小林ふみ子、はじめに)。
編集に工夫がされていて、各論の最後に「Check!」という要約が付されている。まずはここを一覧して、面白そうな論に食いつけばよいのである。
 知り合いも多く執筆しているので、興味を持った論はいくつもあるが、真島望さんの『本朝世事談綺』を「新興都市江戸の事物起源辞典」と見立てた論は、私には勉強になった。「奇談」書の中でも「奇談」の意味を考えるのに重要な本だという位置づけを私もしているが(真島さんも引用してくださっている)、これまで、その言説の典拠まで深掘りしたものはなかったのである。金美眞さんの「印地打ち」は朝鮮人が体験した印地打の話を紹介していて興味ふかい。京伝の古画への関心をテーマにした論文が二編。有澤知世さんは草双紙と、阿美古理恵さんは読本との関係。そして、本書のタイトルにも影響を与えてるのではないかと思われる多田蔵人さんの「趣味(teste)とは何か−近代の「好古」」の論は、非常に面白い。明治になって現れる「趣味」という語が、「一つの文かを〈雅〉と〈俗〉に分かつ江戸期のまなざし」を相対化する契機を作り、そして一つの価値観へと変容するさまを、切れ味するどく描写している。私の不明を恥じるしかないが、こういう切り口をこれまで知らなかったため、目から鱗、を実感したのである。
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2020年06月10日

絵入本ワークショップXU発表者募集

絵入本ワークショップXUのお知らせです。
ワークショップを主催する絵入本学会は、会費なし、何事も無理はしない、でもワークショップのレベルは高いという学会。
私も会員になったのは、実は最近で、韓国でワークショップが開かれるときいて、教え子に会いにもいけるし、という動機で入会した。
ところが、私の聞き違いで、韓国でやるのは少し先(2018年12月に開催)だったことがわかったが、あとにはひけず2017年に実践女子大学で初発表したわけである。その時のテーマは画賛だった。
 その学際性と質疑応答の面白さから、翌年の韓国大会でも発表したのだった。
そのとき、事務局の佐藤悟さんから、「次回は大阪大学でいかが?」とささやかれてしまったのである。すこし猶予をいただき今年9月に開催ということで、準備(といっても懇親会の段取りなど)をしていたのだが、このご時世、オフラインで踏み切るのはちょっとまだ早いとみて、相談の結果、オンライン開催となった。会場を提供するわけでもなく、WEB会議システムを統括するわけでもないのに、「実行委員長」を拝命してしまったのである。すでに下記のように、事務局から会員向けにアナウンスが出ている。
私はそれを拡散する係(と自覚)。まずはブログで告知する次第。ゲストはタイモン・スクリーチ氏。
大会開催案内と発表募集を同時に。大会参加も発表の申し込みも、まずは会員登録からである。オンラインだから、会員以外は入れない。登録の方法は下記の案内を見ていただきたい。ちなみにこの会、私の科研も主催グループのひとつであり、そのため科研テーマと関わる「人的交流と絵巻・絵本」を特集テーマとする。このテーマでの発表、そしてそれ意以外のテーマでも発表者を募集している。
なお、現会員の方も会員再登録をお願いしている。ワークショップに参加表明すれば、自動的に再登録となる。
下記アナウンスをご参照いただければ幸いである。


2020年6月7日
絵入本学会会員各位
         絵入本学会会長   崔京国
大会実行委員長   飯倉洋一
絵入本学会事務局長 河野龍也 
絵入本ワークショップXUの開催のお知らせならびに発表者募集
絵入本ワークショップXUを以下のような要領で開催します。新型コロナウィルスの感染状況が秋ごろに収束するかどうかが見通せない現在、リスクを避けてオンライン開催といたします。開催方式の見極めのため、告知が遅くなりましたことをお詫び申し上げます。

1.日時   2020年9月19日(土)午後・20日(日)午前および午後
2.会場   Zoomによるオンライン
3.費用   参加費 なし 
4.スケジュール
絵入本ワークショップXUは科研基盤研究(B)「近世中後期上方文壇における人的交流と文芸生成の〈場〉」(代表者 飯倉洋一)と共催で行われます 。
このため、仮にスケジュールを下記のように計画しています。
19日 第1部  人的交流と絵巻・絵本(1)
    第2部  基調講演 タイモン・スクリーチ氏(予定)
20日 第3部  人的交流と絵巻・絵本(2)
    (昼食休憩) 絵入本学会総会
    第4部 自由テーマ発表
    第5部 自由テーマ発表
(発表時間 20分、質疑応答15分の予定) 
第1部、第3部は「人的交流と絵巻・絵本」というテーマとし、このテーマに関わる発表を募集いたします。第4部・第5部は絵本、挿絵本等に関わるテーマの自由発表といたします。ただし、発表日の希望があれば承り、調整をいたします。

5.発表の申し込みについて
発表を希望される方は、
・発表題目
・発表要旨 600字程度
・所属(任意)
・連絡先 住所・電話番号
・メールアドレス
・事務局に対するご希望(任意)
以上を記し、Eメールに添付ファイルでお送りください。
(発表希望者で絵入本学会に登録していない方は、登録をお願いいたします)
応募締切  2020年7月10日(金)
発表要旨  600字程度
      運営委員会における審査に使用します。発表者として採択された場合は、あらためて予稿集への執筆をお願いします。書式はA4横書きでお願いいたします。
応募先   iikuraアットマークlet.osaka-u.ac.jp
      アットマークを@に変えてください。
採否    7月末に開催予定の運営委員会で審議・決定し、決定後、一両日中に連絡します。

6.ワークショップへの参加について
絵入本学会の会員に8月上旬にワークショップⅫ・プログラムを送付する予定です。それによってお申し込みください。詳細はプログラムに掲載します。
7.絵入本学会登録について
1. 氏名
2. 住所
3. メールアドレス
4. 勤務先・在学先
登録は6月末までに、以下のメールアドレスの両方にお願いします。
eiribonアットマークjissen.ac.jp
sato-satoruアットマークjissen.ac.jp
アットマークを@に置き換えてください。
以上
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2020年06月09日

享和・文化初期読本の基礎的研究

 近世文学史にいう、いわゆる「後期読本」。その始発は寛政の末ころである。その後期読本のスタイルが多様で可能性に満ちていたころ(享和元年から文化4年までの7年間)のすべての読本(『読本事典』に所載のものを除く)に基礎的な解題を施すという共同研究報告書が、『享和・文化初期読本の基礎的研究』(2020年2月)である。後期読本研究者は必携である。出来れば、電子データでの提供があれば一層ありがたいのだが・・・。
 木越俊介氏を代表者とする科研の成果で、西日本近世小説研究会という、西日本の読本研究者たちが執筆している(お名前はここでは割愛)。このメンバーはさきに文政期の読本の解題を同様に刊行した。『読本事典』が取り上げなかった作品を順次取り上げている形で、ゆくゆくは、名実ともに「読本解題事典」が完成することになる。読本事典所収のものと合わせ書式をそろえて、『浮世草子大事典』のような形になればありがたい(むむ、そうなると前期読本も網羅的解題が必要ね)。読本研究が一定の水準をずっと保ちながら、着実に進展しているのは、故横山邦治先生がもう30年以上も前(昭和!)に『読本研究』という研究誌を立ち上げ、これを後進がきちんと継承して、いまなお研究誌が続いていることが大きいだろう。雑誌の運営は横山先生のころから、ずっと献身的にやってくださる方達によるもので、頭が下がる。西日本近世小説研究会のメンバーは、この雑誌の中核メンバーでもある。
 読本作者のストーリーテラーぶりは、現代のエンターテイメント作家と遜色がない。読本全集・・・と簡単にはいかないが、そこ目指して頑張ってとエールを送りたい。
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2020年06月06日

こてほん高校生版

「高校に古典は本当に必要なのか」。昨年1月に行われた「古典は本当に必要なのか」のシンポジウムの論点が、高校の古典は必修にすべきかどうかであったにもかかわらず、高校生の意見が全く顧慮されなかったことに、高校生が立ち上がって、みずから企画したシンポジウム。それが今日行われた。
コロナの影響で、オンライン開催になってしまったが、高校生たちは本当によくこの問題を勉強し、準備していた。そして招かれたパネリスト(前回のパネリスト+日本語学者の近藤泰弘氏と、日本文学者のツベタナ・クリステワ氏を加えて計6名)に、鋭い質問を浴びせ、パネリストがタジタジになっているように見える場面もあった。オンラインで開催されたが180名以上が参加して、前回以上に問題点がたくさん出てきて、有意義であった。なにより、高校生たちの真摯さに脱帽だ。最後の企画者のスピーチには心打たれた人も多かったと思う。泣いたという人もいた。情緒に訴えたのではない。その真摯さに打たれたのである。そして賛否両論の合意点として「現在の国語の授業に問題が大いにある」というところが浮き彫りにされた。これは高校教員の教え方の問題にとどまらない。入試・教科書編集・ひいては文科省の指導要領の問題にも拡がっていく。
ただ、高校教員の方たちの中には闘志に火を付けられた人たちも少なからずいたようである。まさかの第3弾「高校教員版」をやろうという声が呟かれているようだが、果たしてどうなるだろう。
最初のシンポで「古典が必要か」などという問題設定自体を批判されもした(覚悟していたけど)。あえて否定派によりそったテーマを論題にしたことも、人選も批判された。しかし、ここまできたら、舞台はまわって、いよいよこれからが大きな議論のしどころである。この機運を醸成することがもともとの目的だったからである。
今回の高校生たちの企画がなければそれもしぼんだままだったかもしれない。しかしこの高校生の切実な声を聞いて大人が答えなければ駄目だろう。斜に構えていては駄目だろう。
それにちなみ、今年2月に書いて、刊行待ちになっている原稿を、あえてWEB公開していただいた。なにかの参考になれば幸いである。
こちらが公開された私の文章である。
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2020年06月03日

くさか史風 第5号

以前も紹介したことがあるが、河内の日下古文書研究会の会報である『くさか史風』の第5号が刊行された。放送大学で私の講座を受講してくださった山路孝司さんのご厚意により、送っていただいた。代表の浜田昭子さんが非常にバイタリティのある方で、この研究会を牽引していらっしゃるようである。秋成にもゆかりの地ということで、ご縁が出来たのである。
山路さんは生駒山人の研究をされている方で、放送大学での修士論文は中野三敏先生も評価されていた。今回も、浜田さん、山路さんの論考がそれぞれ2編載るほか、『河内名所図会』を読む、という連載が始まった。これは嬉しい。河内名所図会は摂津名所図会の挿絵でも活躍した丹羽桃渓が挿絵を担当しているものである。楽しみが増えた。
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2020年06月02日

江戸は封建制だったのか

平成29年12月、成城学園創立100周年・大学院文学研究科創設50周年記念シンポジウム「江戸は封建制だったのか−無私と個性と−」が行われた。パネリストにロバート・キャンベル氏と磯田道史氏、コメンテーターに高山大毅氏。よくまあこのメンバー集められましたね。仕掛け人の宮崎修多氏が司会。それが報告書として今年3月にまとめられた。宮崎修多氏からご恵送をうけ、目を通したが、無類に面白い。テーマは「士農工商」「男尊女卑」「救民と海防と」「無私と奇人と」の4パートに分けられる。基調講演はなしで、いきなり議論。へー、えっ、そうそう、なるほど、ふーんなどとページをくっていると、あっという間である。江戸への固定的なイメージをぶっとばすパワフルな議論が炸裂している。それにしても、磯田氏の話芸光ってますね。中身はもう全部紹介したいくらいで、いくら字数を費やしても足りません。むちゃくちゃ面白いので、どこかで見かけられたら是非ご一読を。副題の無私と個性は、無私が美徳の江戸時代になんで奇人が輩出するの?という問題意識。さてその答えは?
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