このところ、絵本に触れることが多い。学生にも絵本絡みの研究をしている者が多くなってきている。ただ、絵本については、私自身まだ手探りの状態、なにかいい手引きはないかと探し、たどり着いた1冊が、太田昌子編『江戸の出版文化から始まったイメージ革命 絵本・絵手本シンポジウム報告書』(2007年)である。これは是非読みたいと思ったが、勤務先の大学図書館にはなかった。相互利用サービスで取り寄せた結果、期待以上の内容である。しかしA4版320頁の大冊。思い切り開いたら背表紙が割れてしまいそうな感じで、「見開き注意」の警告つき。一部分のコピーも無理っぽかった。だが、古本で探しても容易には見つからない。しかし、この報告書、金沢美術工芸大学が出していて、高橋明彦さんも関わっていることに気づいた。そこで早速高橋さんに問い合わせたところ、太田氏に照会してくださった。なんと残部があるということ・・・。太田氏から連絡があって、送っていただけることになったのである。
素晴らしい報告書である。とりわけ「絵本・絵手本・画譜目録」は非常にありがたいお仕事。また参考文献目録も貴重。目録は絵師別だが、署名索引もあるので、書名からも検索可能。もちろん、13年前の報告書なので、ここから情報はさらに充実しているものと思われるが、我々文学研究側からいえば、本当に感謝の仕事。また各論文が有益。序論とそれにつぐ大西広氏の総論的な論文が面白い。学生にも勧める。
2020年10月31日
2020年10月30日
羽倉本『春雨物語』を観る
新出の秋成自筆(奥書の書写年月は亡くなる1ヶ月前)の羽倉本『春雨物語』をはじめとする、新収典籍の展覧会が天理図書館で行われている。本日ようやく見に行くことができ、嘆息しつつ、じっくりと拝観した。
実物を見れば、まぎれもなく秋成自筆と確信できる書体、まだまだ生命力に溢れている。この新しい貴重な1本の出現によって、『春雨物語』研究、ひいては秋成研究は新たな局面に入ることになる。その兆候は最近いろいろとあったのである。次々と現れる『春雨物語』関係の新資料に続いて、今回の秋成自筆本の出現は、「事件」と呼ぶに相応しいものだ。
さっそく天理図書館が刊行する研究誌『ビブリア』154号(2020年10月)に、大橋正叔・大西光幸・牛見正和の三先生による紹介(翻字をふくむ)が発表されている。冒頭や奥書の写真もついている。展示では奥書部分は写真展示であったが、「おっ」と思うところがあった。翻字についての私案を大橋先生らにお示しすることにした。
図録もある。600円。気持ちのいい風が爽やかに感じられる秋の午後だった。
実物を見れば、まぎれもなく秋成自筆と確信できる書体、まだまだ生命力に溢れている。この新しい貴重な1本の出現によって、『春雨物語』研究、ひいては秋成研究は新たな局面に入ることになる。その兆候は最近いろいろとあったのである。次々と現れる『春雨物語』関係の新資料に続いて、今回の秋成自筆本の出現は、「事件」と呼ぶに相応しいものだ。
さっそく天理図書館が刊行する研究誌『ビブリア』154号(2020年10月)に、大橋正叔・大西光幸・牛見正和の三先生による紹介(翻字をふくむ)が発表されている。冒頭や奥書の写真もついている。展示では奥書部分は写真展示であったが、「おっ」と思うところがあった。翻字についての私案を大橋先生らにお示しすることにした。
図録もある。600円。気持ちのいい風が爽やかに感じられる秋の午後だった。
2020年10月24日
忠臣蔵初期実録集
山本卓さん編の『忠臣蔵初期実録集』(清文堂、2020年9月)が出ている。
江戸時代には、当代事件のことを書いたものを出版することは出来なかった。それで、写本で書かれ、それがまた写される内に成長し、変容した。そういう写本の読み物を「実録」という。いまの時代劇に繋がるような話は、実録が基になっているものも少なくない。しかし、長編の写本がいくつもあり(タイトルも違っていたり)、きちんとした本文を選定し校訂するのも容易ではなく、研究者は決して多くはない。
山本さんは、その数少ない実録研究者のひとり(浮世草子や読本も研究されているが、どちらの研究も実録とつながっていると私は見ている)であり、特に赤穂義士物の実録では第一人者である。その研究は堅実でケレン味がないが、時々ホームランを放って私を驚かす。
同い年であり、お近くの大学に勤めていらっしゃるので、親しみを感じているが、出会いは40年程前になる。かつて、
こちらに、その出会いのことを書いたことがある。さて、本書は、赤生義士実録の初期のもの三篇を選んで校訂し出版したものである。虚構が混じっているが、赤穂事件を「筋を通して」{実録研究者高橋圭一さんの「実録」認識は「筋を通す文学」)理解するためには、「史料」だけではだめで、この実録が非常に有用なのである。虚実相交じるものだから、文学と史学の間にあって、両方から参照されるものである。
本書の資料的価値は非常に大きい。
江戸時代には、当代事件のことを書いたものを出版することは出来なかった。それで、写本で書かれ、それがまた写される内に成長し、変容した。そういう写本の読み物を「実録」という。いまの時代劇に繋がるような話は、実録が基になっているものも少なくない。しかし、長編の写本がいくつもあり(タイトルも違っていたり)、きちんとした本文を選定し校訂するのも容易ではなく、研究者は決して多くはない。
山本さんは、その数少ない実録研究者のひとり(浮世草子や読本も研究されているが、どちらの研究も実録とつながっていると私は見ている)であり、特に赤穂義士物の実録では第一人者である。その研究は堅実でケレン味がないが、時々ホームランを放って私を驚かす。
同い年であり、お近くの大学に勤めていらっしゃるので、親しみを感じているが、出会いは40年程前になる。かつて、
こちらに、その出会いのことを書いたことがある。さて、本書は、赤生義士実録の初期のもの三篇を選んで校訂し出版したものである。虚構が混じっているが、赤穂事件を「筋を通して」{実録研究者高橋圭一さんの「実録」認識は「筋を通す文学」)理解するためには、「史料」だけではだめで、この実録が非常に有用なのである。虚実相交じるものだから、文学と史学の間にあって、両方から参照されるものである。
本書の資料的価値は非常に大きい。
2020年10月23日
小川剛生『徒然草をよみなおす』
小川剛生さんによる、『徒然草をよみなおす』(ちくまプリマー新書、2020年10月)。大変読みやすく書かれている本ですが、タイトル通り、一般的な『徒然草』のイメージ(隠遁者による無常の文学?)を一新して、兼好の時代の、兼好の意識に即した読み方を説いています。
全章面白いのですが、99段から100段にかけてを読み解いた第五章をとくに推したいですね。
全章面白いのですが、99段から100段にかけてを読み解いた第五章をとくに推したいですね。