2021年01月26日

英語独習法

 久しぶりに「英語本」。今井むつみ『英語独習法』(岩波新書、2020年12月)。認知科学、言語学習論の立場から、英語をどう学べばいいかを説いた本で、非常に面白かった。もちろん何年たっても英語が中学生レベルにすら上達しない私がこの本によって英語独習法に開眼したから、ではなく、読み物として面白いのである。英語を学ぶときの壁になっている可算名詞・不可算名詞の区別や、不定冠詞と定冠詞の区別がむずかしいのは、英語の「スキーマ」がないからだという。この「スキーマ」という概念が本書の肝である。スキーマとは英語話者にとっては身体化されている、抽象的な意味のシステム(表に現れない、意識もされない水面下の知識)である。日本語話者にはないので、それを習得しなければならない。
 では、そのスキーマはどうやって習得するのか。語彙力を高める必要がる時に、それは語彙を単に増やすのではなく、例文を多く覚えるのでもない。母語話者がもつ生きた単語の知識には、@その単語が使われる構文、Aその単語と共起する単語、Bその単語の頻度、Cその単語の使われる文脈、Dその単語の多義の構造、Eその端野の属する概念の意味ネットワークの知識という要素がある。それらを身につけてはじめて語彙力ということになる。そして、@〜Eを身につける方法として、英語コーパスを使うことを提唱しているのである。英語コーパスは用例が豊富なので確かに、独習が可能かもしれない。
 これまで教室で学んできた英語という教科ではもちろん、いろんな英語学習本でも、こういう切り口の本は読んだことがなく、目から鱗であった。繰り返して言うが、これで私が開眼して、英語がバンバン上達する・・・わけではない。それはわかっている。この本は決して楽して英語をマスターするための本ではないのである。英語学習本として読むことは可能だが、むしろ英語学習が困難な理由を説き明かした本だといえるだろう。
 われわれは、日本語のスキーマで英語を理解しようとしているから、なかなか英語をものにできない。たとえば、日本語は、方向を表す動詞に副詞を添えることで、「ゆっくり歩く」「ぶらぶら歩く」ことを表現するが、英語はそういう時に、日本語で「動詞+副詞」で表す内容を、様態動詞(と方向を表す前置詞)で表現する。などなど、ページをめくりながら、なるほどと思うこと頻りであった。
 もちろん独習法を名乗っているので、実践編もついている。しかし多分率直に言って、初心者中の初心者がこれをやっても効果はないだろう。中級向けだと思う。だからといって初心者に役に立たない本ではない。簡単な単語ばかりの英文をなぜ聞き取れないのかを理解していると理解していないのとでは大違いだろうから。そして例文を繰り返しいくだけではリスニング力はつかない理由も本書を読めばよくわかる。
 そして、スキーマを意識することで、この方法は、古文(古典)学習にもおそらく応用可能である。
 
posted by 忘却散人 | Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする