2021年02月15日

みんなで翻刻サミット

 2月15日、「みんなで翻刻サミット」というZoom集会が開かれた。「みんなで翻刻」というのは、もともとアップされた地震関係史料を、クラウドソーシング、つまり「みんなで」翻刻しようとする企画である。発足は2017年。地震研究者だけで翻刻していてはどれだけ時間がかかるか分からない、膨大な地震史料の翻刻作業を、一般の方のご協力を得て実現しようとするもの。参加者側からいえば、くずし字解読の練習となる。また自分が翻刻したものがまちがっていたら誰かが添削してくれる。また達成度や、翻刻字数ランキングなどのゲーム的要素もあり、サイト作成者も予想しなかった驚くほどの数の人々が、驚くほどのスピードで次々に翻刻を完成させ、当初アップした史料がなくなってしまった。地震に限らない資料を次々に投入し、現在は10数件の翻刻プロジェクトがこのサイトの上で動いている。現時点で数千人が参加し、900万字ほどが翻刻されているという(数字大丈夫でしょうか、間違っていたらご指摘下さい)。コロナ禍になって、その参加者・翻刻字数の増え方はさらにアップしたという。
 この「みんなで翻刻」の波紋はさまざまなところに拡がり、また連携が起こった。発足から4年もたっていないが、その広がりをいったん総括し、今後の展望につなげようというのが、おそらく主催者の意図だっただろう。正直、このところ参加したZoom集会の中で、いちばんエキサイティングだった。
 サミットは、第1部が「翻刻プロジェクトの事例紹介」、第2部が「テクノロジーとみんなで翻刻」で、登壇者は各部5名で合計10名。私は第2部終了後のコメンテーターとして参加した。
  さて第1部は、皇學館大学の井上さんらが同大学での「みんなで「みんなで翻刻」をたのしむ」というプロジェクトを紹介。楽しくくずし字解読を覚えていくツールとして「みんなで翻刻」を活用していた。また琉球大図書館の與那覇さんの沖縄資料デジタルアーカイブ事業と「みんなで翻刻」のリンクの話。ハワイ大学との連携は同大学のヒューイ先生からうかがっていた話だ。そして東大総合図書館中村さんの、同大地震史料石本コレクションの「みん翻」への提供にいたるドラマチックな報告、関西大学菊池さんのアジア映画・中国語関係資料のデジタルアーカイブの「みん翻」への参加と、史料から歴史へとつなぐ仕掛けを作りたいという提案、福井県文書館柳沢さんのデジタルアーカイブ福井が、とあるtwitterの書き込みから怒濤のごとき成り行きで史料を開く経緯などを報告。
 コメンテーターの岡本真さんはこの事業が「偶然」の繋がりで展開してきたこと、プロジェクトの開放性、特に大学図書館や文書館の人たちの献身的な貢献などを挙げ、「人」の大切さを痛感したとコメントされたが、深い共感を覚えた。
 第2部は、テクノロジーを駆使してみんなで翻刻とつながったり、みんなで翻刻サイトを充実させてきた人々の報告。このあたりから私の脳裏には、中島みゆきの「地上の星」が回り始めていた。プロジェクトXの主題歌だ。東京学芸大高橋さんの「かるたLOD」、永崎さんの「みんなで翻刻サーチ」の実演、そして圧巻はタリンさんのAIくずし字認識の開発。現在開発中のスマホでくずし字認識は、スマホで史料を撮影したら次にボタンを押した瞬間翻刻が出てくるというもの。人はAIに助けられて翻刻し、AIは人に教えられて成長する、人とAIの美しい関係がそこにあった。最後に「みんなで翻刻」を主宰する加納さんと橋本さんから、現状と今後の課題など、進化する「みんなで翻刻」の明るい未来を予告する素晴らしい発表があった。
 登壇者の中ではたぶん最長老の私は興奮の絶頂、思わず「しみまるキャップ」を被ってコメント。2011年に師中野三敏の『和本のすすめ』(岩波新書)から10年、くずし字普及運動もここまで来たかという感慨を吐露し、くずし字研究論集や、本プロジェクト史の新書出版など、妄想たくましく提案したのであった。とあっという間の4時間。全ての発表報告、質疑応答にいたるまで面白く、ためになり、なにより楽しかったサミットだった。
 サミット開催に関わった皆様、Zoomウェビナーやyoutube放映を担当した文学通信さん、ありがとうございました。
posted by 忘却散人 | Comment(0) | 情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする