国文学研究資料館が現代芸術家と古典籍を用いて新たな芸術を創出する全く新しい試みはロバート・キャンベルさんの発案ではじまった。そして、その区切りとなる特別展が国文学研究資料館で行われている。ないじぇる芸術共創ラボ特別展「時の束を披く」である。翻訳・演劇・小説・絵画・絵本・インスタレーションと、多様で魅力的なアートが誕生した。詳しくは、
https://www.nijl.ac.jp/pages/nijl/tokinotaba/index.htmlをクリックしていただきたいのだが、私の予想を上回る素敵なものになっているようである。図録もいま予約すれば無料で手に入れることができる。
この事業のために、国文研では「古典インタプリタ」という新しい職業を創った。古典籍と芸術家をつなぐ専門家である。初代インタプリタに有澤知世さんが就任した。学振特別研究員(PD)からの転身。現在は神戸大学と国文研を兼任中。彼女が教え子であることやキャンベルさんとは同じ釜の飯を食ったかつての仲間という関係もあって、この事業には関心をもって見守ってきた。そして私も少しだけ関わり、図録にコラムも書かせていただいた。到着を楽しみにまっているところである。
内覧会の案内もいただいたし、2月には本来は東京で会議があるはずだったが、この緊急事態状況下でオンラインとなり、不要不急の出張も自粛せねばならないという状況の中では、なかなか行けない。4月まで展示はあるらしいのでなんとか時間をみつけて行きたいのだが・・・。
さて、この事業に参加しているクリエーターの一人が絵本作家の山村浩二さんで、国文研准教授の木越俊介さんとのコラボで「ゆめみのえ」という絵本を制作された。鍬形寫ヨの略画的画法で『雨月物語』「夢応の鯉魚」の世界を描いた、ほのぼのとした、しかし深い、「夢」の世界を表現した傑作絵本である。木越さんから、絵本『ゆめみのえ』とともに、山村さんとの対談をおさめた『LOOP』10号(東京藝術大学映像研究科、2020年3月)という、さすが芸大の研究誌というカッコいい雑誌をいただいた。もともと木越さんは間口の広い方で、こういう事業には適役であるが、この対談でも、江戸文学の立場から、さまざまに興味ある発言をしている。「夢」がテーマなので、虚実そして「寓言」について自由に語っているが、私の関心ともリンクするので、非常に刺激を受けた。また山村さんが元々夢に関心があり、さまざまに考究されていたところに、日本古典がもつさまざまな「夢」の話がヒントとなったことがよくわかり、一方で古典研究者である木越さん、そしてそれを読んでいる私も逆に山村さんから大いに学んだ。
共創ラボは、今後もまだ続けるようだ。続けることで、今予想もできない何かが生まれると思う。そういう感触を少なくとも私を持っている。