2021年06月13日

学会記(慶應大学オンライン)

 6月12日・13日の日本近世文学会は昨年秋に続き、オンラインで行われた。コーディネーターである慶應大学の津田真弓さん渾身の運営で、歴史に残るほどの大勢の参加者を集めた。オンラインの利点を活かして、学会会員以外にも開かれた大会とし、参加申し込み者は680名で実参加者も相当いた模様である。参加者の半数が非学会員であったという。シンポジウム「デジタル時代の和本リテラシー古典文学研究と教育の未来」は、佐々木孝浩、ラウラ・モレッティ、海野圭介・宮川真弥・山田和人各氏の、それぞれ取り組んでおられる活動を踏まえた報告であった。佐々木氏からは慶應大学斯道文庫の国際的なオンライン書誌学レクチャーの活動である。現在の海外の日本学のレベルの高さ、それを知るためには英語スキルが必要なことなど、若い人たち必聴の内容であった。これを機に再び視聴が増えるのではないだろうか。ラウラ・モレッティ氏からはケンブリッジ大学サマースクールで長年取り組んでおられる和本リテラシー教育についての報告である。女筆の研究をされている大学院生など驚きの事例も。最近では「みんなで翻刻」とのコラボレーションを行うなど、年年ブラッシュアップされているのがまたすごい。ここで学んだ人たちが、世界の日本古典文学研究を牽引していくことだろう。海野圭介氏からは、国文学研究資料館が長年取り組んで来た大型プロジェクト、30万点の歴史的典籍画像公開の次の大型プロジェクトについての概要説明があった。集積したデータをどう使うか、それはどう社会に貢献するのか。我々研究者がそこにどうコミットしていけるのか。むしろ大きな課題が明らかになった。そして宮川真弥氏は、デジタル時代の翻刻のあり方について、従来の議論を鮮やかに整理し、きわめて論理的に説明・提言した。まことに鮮やか。宮川氏は、日本古典文学研究とデジタルヒューマニティをつなぐ文学研究側のインタプリタの役割を果たせる稀少な人材であることが明らかになった。そしてコテキリの会の山田和人氏は、古典教育教材としての和本の活かし方について、これまでの出前教育の取り組みや、今後の和本バンク構想などについて語られた。ディスカサントの勝又基氏が、あえて煽るような意地悪な質問を各発表者にぶつけ、発表者が「汗!」という感じで答えていた。一方、デジタルヒューマニティ側のインタプリタと言えるAIくずし字認識開発者のタリンさんと、KuLAおよびみんなで翻刻開発者の橋本雄太氏も登壇した。これだけのメンバーを揃えた津田さんの企画力に拍手を送りたい。
 このシンポジウムを受けて、いろいろなことがこれから議論され、試行錯誤されることだろう。私もできることを少しでもお手伝いしたいと思っている。
 2日めの研究発表、私は木村廸子さん、合山林太郎さんの発表を特に面白く拝聴した。質疑応答も盛んであったが、発表者が少ないときは、プログラムの組み方を工夫して、質疑時間をもっとふやしてもいいと思う。ただ、一人の質問時間自体は時間制限してもいいかもしれない。今回は、時間の関係で質問を中途で切った形が時々あったのが残念であった。
 対面でやるときに味わえる会場の緊迫感(逆に弛緩感?)がオンラインではやはり無理である。あの人の発表の時、あの先生はこういう風な顔で聴いていたとか、そういう楽しみがない。また発表についての感想戦もやはり対面とオンラインではかなり違う。しかし、オンラインにはオンラインのよさがある。今後は、ハイブリッドが標準になってくるように思う。学会のリモート中継を請け負う仕事がビジネスになってくるし、オンラインにより学会を外に開くのが当たり前になってくるだろう。いろいろなことを予感させる今回の学会、とにかくあらためて、事務局・開催校スタッフに心から御礼を申し上げます。
posted by 忘却散人 | Comment(2) | 情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする