2022年08月03日
歌枕展(サントリー美術館)
六本木のサントリー美術館で「歌枕 あなたの知らない心の風景」展が開催中である。「デジタル文学地図」で歌枕をめぐる共同研究をやっている者としては見逃せない。
展示は素晴らしかった。学ぶところが多いのは言うまでもないが、何より平安時代あたりから江戸時代にかけての、人々の歌枕に対する思いのようなものが、感覚的に伝わってくる。中でもいくつか注目したもの。
〇伊勢物語下絵梵字経断簡 現在認められる最古の伊勢物語絵。東下りを描いたものだが、定番の燕子花ではない。
〇清涼殿名所絵下絵 寛政に再建された御所の清涼殿の障子画。諸国の名所(歌枕)を一望する構図。有名歌枕に囲まれる全国の縮図。畿内を中心におく配置や季節感など周到に構成されたことがわかるとともに、王朝復古のイメージの具体的事例として貴重。
〇松川十二景色和歌画帖 相馬藩主が、藩内の新しい歌枕創出を目指して成った十二景。実景を見ずに作ったというところに「歌枕」を考えるヒントがある。
歌枕の展示を見ると、やはり歌枕のイメージは作られたものという感をあらためて認識させられるが、一方で西行はそれを実際確かめるように旅をした。そこで詠んだとされる和歌がまたイメージを増殖する。その西行に憧れて芭蕉も旅をし、その芭蕉に憧れて現代に至るまで歌枕を旅する人々がいる。
歌や絵だけではなく、人を介することで歌枕イメージが膨らんでゆくということを感じさせられた。
また、歌枕を並べること、尽くすことに、いろんな意味があること。もちろん本としてそのようなものは、宗祇を初めとして多くあるのだが、それぞれに思惑があるのだと。
とまれ、さまざまなこと思わせる展示かな であった。