2023年03月29日

明治歌舞伎史論

 金智慧(Kim Jihye)さんの『明治歌舞伎史論 懐古・改良・高尚化』(思文閣出版、2023年3月)が刊行された。
 明治期は歌舞伎史にとって激動の変革期である。本書は、歌舞伎と社会との関わりに注目し、「江戸懐古」「脚本改良」「高尚化」という視点から、新たな歌舞伎史構築を目指したもので、歌舞伎史研究においても意義のある研究書だと私は思う。
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 私にとって、この本の刊行は少なからず感慨深い。私の教え子としては初めての論文集という事になるからである。
「あとがき」にもあるように、彼女は韓国の誠信女子大学校を出て、高麗大学校の大学院に進み、そこで1年学んだ後、大阪大学に研究生としてやってきて、博士前期課程、同後期課程と進み、2022年3月に学位を取得、京都大学人文科学研究所に助教として就職した。大学院交流事業で高麗大の院生と大阪大の院生とて共同研究会をやったことがあり、高麗大在学中の金さんが発表したことがあった。2015年1月のことである。それから大阪大に来て私のゼミに所属した。私は歌舞伎が専門ではないし、まして明治歌舞伎の研究ということなので、指導教員としては全くの能力不足で、大変申し訳なかった。授業も大学院では演劇関係のテキストを扱うこともない。そんな中で、よく頑張ったと思う。特に博士後期課程に入ってから、地道に努力し、ものすごく伸びたと思う。それは演習などでの発表にも如実に現れていた。
 そして彼女は日本語の読み書きが完璧に近い。英語もできる。博士後期課程に入ってからは、国際学会での発表、UCBへの留学などチャレンジを続けた。これからの研究・教育界には非常に有益な人材となるだろう。
 本書に収められている各論文については元になった初出論文については私が見ている(他の専門の先生にも見てもらっていたかもしれない)。論の進め方とか書き方については指導できても、専門的な内容についてはさっぱりであり、阪大には歌舞伎が専門の先生もいらっしゃらないので、本当に指導環境は良いと言えなかったのである。この論文集に専門的な部分で行き届かない部分があれば、それは私の責任でもあるのだ。
 とはいえ、若手研究者の出版を支援する勤務先の助成金をいただけるというチャンスがあったので、それを掴み、形にしたのは素晴らしい事である。表紙もいい感じに仕上がった。表題については相談を受けたので、提案させていただいたが、なんとそれを使ってくれたようであるが、表題がデザイン的にもしっくりしていて安心した。
 どうか、皆さんのご批正を賜れば幸いである。
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秋成自筆長歌の報告

 吹田市立博物館(大阪府)に2021年に入った、上田秋成自筆長歌一幅について、同館の館報に調査報告を掲載させていただきました。「吹田市立博物館所蔵上田秋成自筆長歌一幅について」(『吹田市立博物館館報』23号、2023年1月)。昨日、落手したものですから、ここでのポストが少し遅くなりました。秋成が妻と共に元日に垂水神社に出かけ、小松引きをして遊んだということが詠まれています。垂水神社は今も吹田に鎮座しており、吹田市立博物館が本長歌を入手した所以もそこにあります。さて、この長歌自体は、秋成の家集に収められたものですが、成立時の筆写ではないけれども秋成の自筆であること、題が秋成の家集所収のものと異なること、書写年月(つまり秋成再写の年月)と年齢が記されていることから、秋成伝に新しい事項を立てられることにもなり、貴重な資料であると言える。
 実際に秋成が元日に垂水神社に出かけたのは、寛政三年だろうと推定した。さて、ではなぜその時小松引きをしたのか?これを論文をお送り
したS先生に問われて、はて?なんでだろう、と思い至らず、S先生に逆にお考えを聞いたところ、その問いを投げかけた理由を教えていただき、「なるほど「なるほど!」と膝を打った次第。これは次の課題として受け止めさせていただいた。
 吹田の学芸員のIさんが、私の研究室を訪ねてこられ、私に自筆かどうかの見立てと調査を依頼してくださった。ちょうど垂水神社の近くにある関西大学に出講していたこともあり、縁を感じた。なおご興味おありの方はPDFで報告文をお送りします。コメント欄にメールアドレス(他の方には見えません)をお書きください。


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