2023年08月31日

日本近世文学史

 長い間更新していなかったが、ひと月なにも投稿しないというのは、なんとしても避けたいという思いで、8月末日にいたって、投稿する。
 紹介する本は、鈴木健一さんの『日本近世文学史』(三弥井書店、2023年5月)で、3ヶ月以上前に出版されたものである。
 個人で近世文学史となると、本当に何十年ぶりとなるだろう。(浜田啓介先生の『国文学概論』は、壮大な日本文学全史だがこれは別格として)。
それを誰がやれるかとなると、やはり鈴木さんだろう。鈴木さんには『近世文学史論』という本が既にある。「古典知」の継承と展開という切り口での文学史論である。これは「古典学」を基盤とする鈴木さんの学問方法から必然的に導かれたものだった。
 今回の文学史も、やはり鈴木さんの近世文学観が反映した、独特の構成となっている。全体を五部にわけ、「詩歌史」「注釈史」「小説史」「文章史」「演劇史」に分ける。これで全ジャンルを見渡した形になるが、第一部に詩歌史をたて、それが本全体の半分近くを占めていること、詩歌史の中でも、和歌・狂歌・漢詩・俳諧・川柳の順になっていることがまず第1の特徴である。また第二部に注釈史を置き、第四部に文章史を置いていることも独自である。注釈史は、その内容よりも形式に注目していると言える。文章史は、詩歌史に対応する形で、和文・漢文・俳文・狂文を立てる。演劇史の紙幅は少ないが、具体的な作品を挙げての叙述は、ここにも貫徹している。
 この文学史は、鈴木さんの色がかなり出たもので、複数の著者による既出の文学史とはかなり違った味わいとなっている。鈴木文学史観に共感する人でないと、概説的な教科書としては使いにくいだろう(これは決して否定的な意見ではない)。
 ちなみに「小説史」では、6行ではあるが、「奇談」の系譜というのを立てていただいて、私の説を挙げていただいている。私なりに文学史を考えた説であるから、総合的な文学史にたぶん初めて載せていただいたのはありがたく、感謝申し上げる。
posted by 忘却散人 | Comment(0) | TrackBack(0) | 情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする