3週間ほど後、研究室旅行に出かけます。そのときのパンフに毎年文章を求められます。以下はその書き出し。「忘れえぬ手前荘」というタイトルで一応カテゴリは逆説的に「忘れ物・失せ物」。
この「手前荘」(仮名)の話は幾度かしたことがあるが、書いたことはない。あれから三十年以上も経つことだし、そろそろ備忘に書いておいてもいいだろう。大学に入って一年目の年は、記憶が鮮明である。手前荘に住んでいたからだと言い切ってもいいだろう。
高校三年の三月。同じ大学に入学することになった同級生三人(私以外)が下宿さがしに出かけた。戻ってきたときには、私の部屋が勝手に決められていた。下宿は大学から徒歩十五分ほどのところにある、相当古い感じの、まかない付き下宿。私の部屋は四畳、日曜日を除く朝夕食と隔日の風呂付で一万八千円。下宿の相場は三万から三万五千円というところだったから激安である。下宿人は約二十人ほど。そのほとんどの人の名前と顔と、部屋の配置を思い出すことができる。以下固有名詞はすべて仮名である。
(続きはパンフの読者のために省略…)
2008年07月31日
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