2009年05月09日

絵本読本の序文

『江戸文学』40号(ぺりかん社、2009年5月)は〈よみほん様式〉考という特集。国文学研究資料館のプロジェクト研究「近世後期小説の様式的把握のための基礎研究」の成果報告の一部でもある。大高さんが書いているように、このプロジェクトで目立ったのは、上方の絵本読本の再評価と、人情本のジャンル的位置づけの再検討であった。

本号の内容は以下の通りである。

<よみほん様式>とはなにか=大高洋司
読本に関わる文体論試論―言表提示の周辺=濱田啓介
「読本」としての西鶴本―『八犬伝』表現構造への影響をめぐって=中嶋隆
読本の時代設定を生み出したもの―軍書と考証=井上泰至
濫觴期絵本読本における公家・地下官人の序文=飯倉洋一
実録から絵本読本へ―二つの「忠孝美善録」=菊池庸介
<一代記もの>における江戸と上方=大高洋司
浄瑠璃の読本化に見る江戸風・上方風=田中則雄
人情本の外濠―文政年間中本の一考察=木越俊介
[コラム]
読本の形式=藤沢毅
『昔話稲妻表紙』の歌舞伎化と曲亭馬琴=大屋多詠子
『朝顔日記』の文芸的展開=檜山裕子

本特集は、プロジェクトの趣旨に鑑み、大きな枠組みを提示したものが多い。よく見ると小論以外はみなそうである。濱田啓介氏はいわゆる「会話文」の引用形式に着目して、中世以来の厖大な用例を精査し、文体の面から読本の様式位置づけを検討するものすごい力作。数少ない文学史家といえる中嶋隆氏は、表現面に着目して、西鶴から馬琴への小説史を見通す。その他、いま詳細に触れる余裕がないのだが、「合評会」をしたくなるような、魅力的な論文ばかりである(プロジェクト研究会での発表が基になったものも多い)。

小論は、その中で局部的なことをとりあげていて申し訳ない次第である。プロジェクトに参加しているうち、知らず知らずぼんやり形づくられていたものを、文章にしてみたもので、試論の域を出ていない。

ただ、むかしから、名所図会と上方読本の序文に公家・地下官人がよく書いているなあと漠然と思っていた。今回、何か書くようにといわれて、そのことを少し考えてみようと、とりあえず上方の絵本読本を文字通り外側から通覧してみた。結果的には濫觴期に絞った話になった。

公家・地下官人の序文と、絵本読本濫觴期における朝幕関係の動揺、太閤記・楠公記・忠臣蔵という幕府にとってはビミョウな内容の読物化を関連づけてみたもの。濱田啓介氏、山本卓氏らの卓越した先行研究にずいぶん助けられている。
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