山本卓さんが『舌耕・書本・出版と近世小説』(清文堂出版)を刊行された。大高洋司さんが推薦文を書かれている通り、「著者の堅実な学風に大胆さが加わり、読んで面白い論文集になっている」。「書本」というタームを書名に使った例は他に知らない。森鴎外の『雁』に出てくる言葉で、実録・講談を読み物化した写本である。舌耕→書本→出版という流れで、縦筋を作っている。そこがこの本の手柄で、ユニークなところである。
私は個人的には山本さんの絵本読本の研究にお世話になった。『忠臣水滸伝』が後期読本の始発で、それに上方読の『絵本忠臣蔵』が影響を受けたという定説を、出版記録などを精査して、ひっくり返し、それは逆だと言っているあたりはすごい。
山本さんは、私と同年生まれである。たしか星座も同じだったような記憶がある(ちがってたらすみません)。それでということもないが、昔から親近感を持っている。
山本さんとはじめてあったのは、彼がQ大に本を見に来た時だった。私が大学院生の時だ。中野先生が君も一緒にと、食事に誘って下さり、たしか「珍竹林」という焼き肉の美味しいところに行ったと思う(これと同名の店が難波にもあるが、関係ないと思います)。この店は『下戸の口 二杯目』(中野先生作福岡グルメ評判記』にも載っていたような気がする。若いころにはありがちだが、同世代ということで意気投合しすぎて、山本さんが泊まっていたホテルにまで押しかけ、飲み明かした記憶がある。なにを話したかはあまり記憶にないのだが、他大学の院生と何時間も話し込んだのは初めてだったので、いたく刺激を受けた。
大高さんが推薦文を書いたのは、読本プロジェクトの縁もあろう。プロジェクトのころ、山本さんは重職についていたらしく、校務が多忙そうであったが、可能な限り参加されていた。ここにくるとホッとするみたいなことをおっしゃっていて、やはり研究が好きなんだろうなあ、と思ったものである。
そういうわけで、この本は私にとっても感慨深いものである。心から慶賀申し上げます。
2010年11月06日
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これまでの「読本」研究と、「書本(実録)」を視野に入れた卓さんのようなやり方が合体すると、この分野の研究はもっと魅力的になると思います。特に若い方たちには、強くお勧めします。
読本研究はいま、若い人たちがたくさん出てきていて、とても明るい分野ですが、山本さんの本のおかげて、様々な展望が可能になってきたということでしょう。