2010年の3月に出た本。中公新書。少し前に必要があって、精読。読了後に大きな満足を得た。精読するときには、本にボールペンで線を引き、見開きの左右余白に学んだことを書き入れる。忘れてはいけない、有意味なことだけであり、単なる知識としてではない。それが24箇所に及んだ。私の無学のなさしむるところであるかもしれないが、俳諧を学ぶ人にとってはお役立ち情報が満載である。ということで、4年以上前の本をここで紹介する次第。
本書の魅力は、単なる芭蕉伝に終わらず、善信先生の芭蕉観、あるいは蕉風観が強く反映した芭蕉伝であるということだろう。
私は善信先生とのおつき合いはほとんどない。かつて俳諧関係の拙論を書いてお送りしたときに、ご教示を葉書で頂戴したこと。某誌編集委員会で1年、ご一緒したことがあること。それくらいである。
私が若いころ参加していた九州の研究会で、文人の書簡をみんなで読み、その翻刻を研究同人誌に発表していたが、必ず善信先生から、いろいろな誤読を指摘するご返事が来ていた(九州の錚々たるメンバーでも読めなかったところを読めているのである)。そういえば近世の書簡を読むための入門書も書いておられる。また学界でホットな話題になっている論点について、果敢に論争を挑まれることがよくあるということなどから、学界にとって非常に貴重な存在でいらっしゃると思っている。論争を挑む論文も実に面白い。
本書でも学界の定説になっている部分に異を唱えたり、独自の見解を述べる部分があり、エキサイティングである。善信先生の芭蕉伝における独自の見解としては、芭蕉が深川に転居して隠逸的生活を送るようになるきっかけとして、芭蕉の「内縁の妻」寿貞と甥桃印の駆け落ちを想定しているということ。また芭蕉が旅を人生とするようになる切っ掛けは西行ではなく仏頂の影響が強いと考えていることなどがあげられる。また芭蕉句の評価として、「軽み」の句を評価されている。
ただ、そればかりではなく、俳諧史の肝のようなものをさりげなく開陳してくれているところがありがたい。それが何かは、私のメモの中にある。人によっては常識に属することだろうから、ここには掲げない。
2014年07月09日
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