2016年01月01日

上田秋成研究事典

あけましておめでとうございます。本ブログも9年目に突入しました。今年もよろしくお願いいたします。

笠間書院から、『上田秋成研究事典』(秋成研究会編)が、この1月に刊行される。関係者には見本がすでに配布されている。私もこの中の「秋成の和文」(400字詰原稿用紙約30枚)を執筆している。ただし、「秋成の伝記」を執筆した長島弘明さん、「秋成の学問」を執筆した稲田篤信さんもそうだが、秋成研究会に所属しているわけではなく、ゲスト格?である。それ以外は、木越治さん率いる秋成研究会のみなさんによる共同執筆である。私らの立場は、本の執筆者としては内側の人だが、非会員ということでいえば外側の人である。よって、すこし批評的に本書にコメントすることも許されるかなと思う。

『事典』を名乗っているが、研究ハンドブック的な性格を持つ。それも『雨月物語』『春雨物語』に紙幅が大きく割かれている。秋成の文業を総合的に考えれば、それはいささか偏っていると言えるが、現在までの研究状況や国際的な秋成受容の現状を考えれば、当然の措置である。雨月・春雨につては、作品別研究史という形をとっているが、こういう形で研究史を一覧できるものが、従来あまりなかったので、重宝であるとともに、やはり「作品論」が中心であるという従来の研究ドグマに縛られているとも言える。これもオーソドックスなハンドブックを作ろうとしたらそうなるのは仕方がない。『雨月』『春雨』以外の作品もいくつか取り上げられているし、それ以外の著述についても、「和文」「伝記」「学問」というトピックでカバーできるようになっている。まあ、この『事典』をひとつの秋成研究の規範とするならば、我々教員は、それを利用させていただきながら、自らの秋成観をそことのズレを強調しながら語ることができるだろう。
 
 きわめて有益なのが「典拠作品の世界」である。『雨月物語』の中国典拠について、解題、書き下し、現代語訳を付ける。長尾直茂さんと丸井貴史さんの労作である。とりわけ白話小説を担当した丸井さんのご苦労は察するに余りある。ありがとうございました。この部分、本書の白眉だと言ってよい。

 雨月の研究史は分担執筆で、それぞれが思い通りに書いている印象であるが、とくに木越治さんの「菊花の約」は、主要な論文を揚げて論評するというスタイルで他とは異なる。ここに拙論が取り上げられたのは、まことに有りがたいことで、深謝申し上げる次第であるが、ただ「きつすぎる物言い」かもね、と木越さんがおっしゃっているように、かなり批判されているのでありました・・・・。ここまで批判されると、むしろ研究者としては嬉しいわけではあるが、『事典』を名乗る本書にこうまで書かれては黙っているわけにもいきません。いささか誤解もあるのではないかと思うし、「批判として成立しない」と思われる部分もあるので、(あ、これは拙論が「作品論として成立しない」と書かれていることを踏まえているんですが)、反論を書きたいと思うわけであります。
 だが、それはともかくとして、この事典が、秋成研究史上、画期的な成果であることは確かである。とくに、卒論を書こうとする学生や、秋成を演習や講義で受講している学生には、非常に助かる本である。当然、読むように勧める。
posted by 忘却散人 | Comment(0) | TrackBack(0) | 私の仕事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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