ボストン大学のWiebke Denecke氏の講演会が、6月2日にハイデルベルク大学で開催される。
デーネーケ氏は『日本「文」学史』(勉誠出版、2015年9月)の編者のおひとりである。
この本は昨年出版されたが、気になりながら、読んでいなかった。
こちらにきて、氏の講演があるということで、私の受け入れ教員であるアロカイさんが、本を貸してくださった。早速デーネーケ氏の「「文」の概念を通して日本「文」学史を開く」を拝読。
ヨーロッパ(とくにドイツ)において、歴史のある「概念史」という研究方法を、東アジアの研究に本格的に導入すること提唱するもので、日本における「文」の概念を多角的に検討することで、従来の日本「文学」史を相対化し、新しい「文」学史を開こうとするもの。大変な理論家で、おっしゃること、うなずくところが多い。
「文」や「文学」の概念のとらえなおしは、近年の潮流であろう。思想史・美術史との連携企画も目にすることが少なくない。ただ、ここまで徹底的に「文」概念を洗いなおしたものは、なかったということだろう。、
「文学」がliteratureの訳語として明治以降に定着した漢語であって、近世以前とのズレがあることについては、従前問題視されていたところである。『日本「文」学史』の第1巻では、古代・中世の「文」概念の検討となっているが、今後近世はどう扱われるのであろうか。
近世においても「文」についての概念論は漢文・和文ともに盛んである。近代への接続と断絶を考える際に、近世の「文」概念は外せないはずである。徂徠の『訳文筌蹄』、真淵の『文意考』や蒿蹊の『訳文童喩』『国文世々跡』といった「ど真ん中」の著述もある。「史」を謳うのであれば、当然近世は外せないだろう。ぜひ『「文」学史』の中には近世期の「文」概念を取り入れていただきたくお願いしたい。
追記:編集担当の方によると、続冊には近世がたっぷりと盛り込まれるということ。よかった。楽しみである!
2016年05月23日
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