塩村耕さん。このブログでも何度かご登場いただいている。塩村さんの人生をかけた一大仕事といえば、岩瀬文庫の悉皆書誌調査である。愛知県西尾市にあるこの岩瀬文庫、知る人ぞ知る、くせもの揃いの本が山のようにある、岩瀬弥助旧蔵の文庫である。塩村さんは2000年から、この文庫の悉皆調査をはじめた。来年調査完了だという。とにかく近世文学の研究を本格的にやりはじめると、ここの文庫にどうしてもお世話になることになる。稀本・珍本ぞろいである。展示や書籍で発信してこられ、また西尾市が「本のまち」として市あげて文庫をサポートし、その名はかなり本好きには広まった。根本には、塩村さんの悉皆調査への強い志がある。
塩村さんは1000点完了時点で、途中経過を報告しているが、1点1点内容をきちんと読んだ上での記述であり、これが万に及ぶのだから、気が遠くなる。普通出来るとは思わない。しかし塩村さんは時間の許す限り文庫に通い、ゴール間近に来ているのである。前にもここに書いたと思うが、悉皆調査のような、壮大なことをやり遂げるためには中途半端な志ではだめで、かなりのことを捨てないとできない。塩村さんのように、こころおどるような論文が書ける人だと、いろいろと書きたいことも山のようにあるだろうに、ある程度あきらめなければならないはずだ。これが非常にむずかしいのである。また、頼まれる仕事についても、かなり断っておられるはずだ。ある程度非情にならないとできないし、対象への並々ならぬ持続愛がなければできないのである。言うまでもないが、私などののようなものには絶対に真似できないこと。まったく敬愛に値する。
さて、悉皆目録刊行への序幕ともいうべきブックレットが刊行された。『三河に岩瀬文庫あり』(風媒社)だ。岩瀬文庫の概要がわかりやすく記され、珍本の一部が紹介され、達人達の座談会があり、と豊富な内容だ。コラムの「古典籍豆知識」は単なる豆知識ではなく深い洞察に裏打ちされた文章で示唆に富む。書名は本の作り手の意志を尊重するなら「外題」でとるべきこと、書籍史料は「現状維持」ではなく積極的に補修されるべきであること、などなど。850円+税、とお得である。
2016年12月21日
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