小川剛生さんの『中世和歌史の研究―撰歌と歌人社会』(塙書房、2017年5月)が刊行された。
すでにネット上ではちらほらレビューも見られる。
予想に違わず、ずっしりとした重みと、鋭い切れ味を兼ね備えた、魅力的な研究書である。
小川さんの学風はみずから「歴史的・実証的」というように、和歌と政治の絡みを意識した史的展望に基づく厳密な実証なのだが、読んでいて、興奮を禁じ得ない。「膝を打つ」「目から鱗」の叙述が次々に展開する。
やはり、それは、問題の所在の指摘の鮮やかさである。
中世和歌史の研究は、傍目から見ても、いわゆる院政期から新古今時代が盛んに見える。しかし小川さんは、鎌倉後期から室町中期に切り込む。「形骸化したはずの和歌と官職によって辛うじて統一性が保たれていたとさえ思える」この時代の「撰集」という営為に着目し、骨太の和歌史構想を打ち出してくる。
誰も問題視しなかったことを論点とし、そこを起点に、最も適切な資料を材料に、緻密に、しかしスリリングに、知られざる事実を明らかにし、「撰歌」の持つ重大な政治性をも考察する。研究史への目配りは勿論、関連資料の博捜に基づく立論であることで、説得力が半端ではない。
たとえば、撰集の中での四季部とそれ以外の意味など、事実の提示によって重要な指摘が裏付けられていく。それらから立ち上がる、小川さんならではの和歌史の新鮮さ。研究書として、あまりにレベルが高くて、絶句してしまうほど。
本当に素晴らしいの一言。まだまだ筆に尽くせないが、とりあえずここまで。
2017年06月07日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバック