『浮世草子大事典』(笠間書院、2017年10月)が刊行された。快挙と言わずしてなんと言おう。
江戸時代の他のジャンルでは、このような作品網羅的な事典は出ていない。棚橋正博氏の『黄表紙総覧』がそれに近いか。『読本事典』『人情本事典』は網羅的ではない。仮名草子・談義本・洒落本・・・・、なかなか簡単にできるものではないだろう。
本書は「事項編」「人名編」「作品編」「資料編」「索引編」から成る。
「事項編」は19のトッピクについて、それを得意とする執筆者が、最新の成果を踏まえて書いている。概説はもちろん長谷川強先生。浮世草子を専門とする人以外でも、好色本関係を石上阿希さん、役者評判記や演劇との関係を河合真澄さん、貸本を長友千代治先生、そして国語学者も文法・表記・語彙・文体などの解説で参加している。私も「奇談」との関係を書かせていただいた。たったそれだけで執筆者の一人に入れていただいたのは申し訳ない次第である。
「人名編」には絵師も取り上げられているのが嬉しい。
もちろん圧巻は「作品編」で、「梗概」「特色」「諸本」「翻刻・影印」「参考文献」と、各項目至れり尽くせりである。ここが執筆者の皆さん本当に苦労されたところだろう。多くの作品において、その挿絵も紹介されている。
「資料編」は挿絵画像補遺と浮世草子年表。事項・関連作品・戯曲も載せているので、時代の中の浮世草子が見えてくる。
「索引編」は、五十音順とカテゴリー別の両方で引ける挿絵索引。これが当時の風俗を知るのに貴重である。
それにしても、浮世草子研究者軍団は、かつて『八文字屋本全集』を出し、『西鶴と浮世草子研究』を5号刊行し、今またこの大事典を出す。その団結力は敬服に値する。これはやはり、長谷川強先生の牽引力・求心力が大きいのだろう。
その長谷川先生の序には、「八文字屋本は才覚の模倣・剽窃に過ぎぬというような愚蒙の説が長く通用していたのである」と従来の評価を斬り、浮世草子の文学史上における真の意義を説いておられる。
従来のこの種の事典になかった「挿絵の重視」も大きな特徴になっている。これがあるので、社会史・風俗史の研究にとっても必備の事典となっている。何より、引く事典というよりは、読む事典としての魅力がある。
事典の編集に携わった方々には特に御礼を申し上げたい。
2017年10月11日
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