2019年09月20日

雅俗18号 その1 青山英正氏の春雨物語流通論

 いろいろ遅れて紹介しているのがあるけれど、雅俗の会の『雅俗』18号(2019年7月)は、リニューアル『雅俗』史上、私にとって最もエキサイティングだった。
やはり、その第一は青山英正さんの「伊勢の文化的ネットワークと『春雨物語』の流通」である。写本というのは、この世に唯一であり、その書写者・所蔵者(それが代わっていく場合も)のドラマがそこには秘められている。それは「手紙」に近いものである。拙著『上田秋成 絆としての文芸』以来、授業や講座で繰り返し述べてきたことである。秋成の『春雨物語』こそ、その典型的な事例である。『春雨物語』には富岡本と呼ばれる系統と、文化五年本と呼ばれる系統がある。前者は京都の羽倉信美への謝礼、後者は伊勢の商人(長谷川家)の依頼によって書かれたものであり、両者の本文の違いは渡す相手を反映したものではないかというのが、私が拙著でも書いた仮説だった。しかし、私もそうであるが、秋成研究者は、この問題を、秋成中心で考えてきた。ところが、近年、石水博物館の川喜田家の資料が調査され、秋成周辺の伊勢の文化ネットワークが劇的に明らかになりつつある。青山さんが春雨物語の貸借の状況などを明らかにし、今回の論文でも伊勢の人的ネットワークを背景にして春雨物語の流通を考えることを提言している。文化五年本の中でも桜山本の筆者とされる正住弘美に焦点をあて、彼がなぜ春雨物語を筆写したのかについて、諸資料を博捜して明らかにした。最後に青山氏の卓抜な比喩を引用しよう。
  川喜田遠里や小津桂窓のような江戸店持ち商人たちは、こうした伊勢の局所的ネットワークに接続する一方、江戸や上方とも文化的、商業的関係を持つことで三都をハブとする広域ネットワークとも接続していた。つまり、彼らは、伊勢の局所的ネットワークと、三都を含めた広域ネットワークとを中継する、いわばルーターのような役割を果たしていたのである。

 
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