2020年03月08日

幕末明治の社会変容と詩歌

 青山英正さんの『幕末明治の社会変容と詩歌』(勉誠出版、2020年2月)が刊行された。
 3部全15章に、魅力的な問題意識に基づく優れた論考が配列され、和歌と新体詩の両方を、体系的な構想の中で論じるという、離れ技をやってのけた。
 前書きに次のようなことが書かれている。前近代から近代へと移行するなかで、詩歌の領域で二つの注目すべき事実がある。ひとつは前近代の国歌や社会を支えてきた和歌という文芸が近代以降も近代短歌として継承されたということ、もうひとつは、近代化の過程で新体詩という文芸が創始されたということ。それはなぜか。
 文芸を社会的行為としてとらえ、幕末明治期における社会変容過程に位置づけるという方法を取ってそれを解明すると。普通に国文学を教育された者にはなかなかできない発想である。
 青山さんは序章において、みすからの構想の見取り図を示している。青山さんの力量を証明するのは、研究史の整理である。単に目配りをしているだけでなく、自身の問題意識に焦点化している。そして近世と近代の連続を、近世から見るのでも、近代から見るのでもなく、双方に等しく目を配るというのである。これまでのあらゆる先行研究の方法を見据えながらも、どの研究からも距離をとり、その隘路に独自の道を拓いている。なにより文章に品格があり、しかも読みやすい。
 本論第一章は、私が盛田帝子と編んだ『文化史のなかの光格天皇』(勉誠出版)に書いていただいた論文であった。これは非常に嬉しいことであった。近世と近代をつなぐもののポイントのひとつが天皇である。天皇がになう古今伝受の意味が重くなったがゆえに古今伝受が途絶えるという逆説を見事に論じている。
 「あとがき」は、研究書を読む愉しみのひとつだろう。本書の「あとがき」は、数ある「あとがき」の中でも特に印象に残る物のひとつだ。私が知っている人が多く登場することもあるのだが、青山さんの学問を形成する上での、それらの人々との出会いと大切な場面がものすごく素敵に描かれている。名文と言ってよいだろう。視野の広い本書は、和歌・新体詩研究に収まるものではない。文学史・思想史・社会史・・・いや、近代の成立に関心のあるすべての読者にとって、読んでよかったと必ず思わせる本だろう。
 
 
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