橋本経亮(つねすけ)と言っても知る人は少ないだろう。信頼性の高い辞典にも「つねあきら」となっていたりで、近世中期の上方文壇に興味のある人でないと、この名前を正確に知らないということになってしまう。しかし、この人物、上田秋成・本居宣長・小澤蘆庵など、当時の錚々たる文人との付き合いが深く、人と人との仲介をよくやっていて、看過できない人物なのである。京都梅宮社の神官であり、宮中の雑務を担当する非蔵人でもある。この「非蔵人」という人たちの中には羽倉信美や藤島宗順など、当時の上方文壇のキーパーソンが多くいて、「非蔵人ネットワーク」を形成していたこと、加藤弓枝さんの研究に詳しい。とくに経亮は、本居宣長を京都の堂上文化圏と繋げる役割も果たしており、きわめて重要である。その経亮の旧蔵書は、京丹後の豪商稲葉家が買い取り、長くそこに保存されていたが、その後、さらに蒐集家の手に転じ、昭和初期に慶応義塾大学に寄贈されたのである。
稲葉家によって「香果遺珍」と命名されたその資料の全貌が、今回「橋本経亮旧蔵香果遺珍目録」(慶應義塾大学三田メディアセンター、2021年3月)として刊行され、明らかになったことは、私のように秋成周辺の人的交流に興味のある者には、もう非常に嬉しいのである。図書館の刊行物のならいで個人名は出ていないが、慶應大学斯道文庫の一戸渉准教授の労作であることはメディアセンター所長の巻頭言に明記されている。
これらの資料解題は、誰にでも出来るものではなく、この時期の上方文壇に通じている一戸さんならではの記述があちこちに散見される。秋成・蘆庵についての新たな知見も、見出される。
いやもう、まだブログに書いていない本を含め、ちょっとこのごろ出る本は、興奮の連続なんですけど。新学期なのでこれはもう嵐のようにとしか喩えられない。
2021年04月08日
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