7月に入りました。退職後は時間がいっぱいあるから、ブログも毎日のように更新、というのは絵に描いた餅でした。いただくメールは確かに激減したが、なぜか余裕がない。その結果、依然としてコメントすべき本が山のようにあります。さて、猛暑の中、今日はやや熱中症的な症状を発してしまいました。そこに届いた涼風、いやそうではなく、平凡社東洋文庫の『羈旅漫録』。木越俊介さんの校注。ようやく、丁寧で信頼できる注で、この本を読めるときが来たのかと、感慨深い。
かつてこのテキストを大学院の演習で読んだことがある。各自興味のある条を選んでの注釈である。だから懐かしくもある。
馬琴が上京した前年に大田南畝も大坂に仕事で長期滞在したが、毎日生き生きと名所旧跡を訪ね回っている。この当時の馬琴はまだまだ全国区ではない。南畝の紹介状を携えて、あこがれの上方へやってきた。そのワクワク感が伝わってくる。しかしさすがは馬琴、あとあと創作に役立つだろうと、戦略的に細かく記録を作っている。これが一流である。真似したくても真似できない。
秋成のことも高く評価している。「京にて今の人物は皆川文蔵と上田余斎のみ」といい、「余斎は浪花人」と注記する。南畝から何か訊いていたのだろうか?いろいろ想像が膨らむ。南畝もそうだが、やはり一流の文人の見聞記は、ポイントを衝いていて面白く、勉強になる。
デジタル文学地図プロジェクトの観点からも、この注釈付きの決定的テキストの刊行は、まことにありがたい。
2022年07月01日
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