國學院大學日本文化研究所編『歴史で読む国学』(ぺりかん社、2022年3月)。国学史の新しい入門書を標榜している。これまでの国学史は、どちらかというと主要な国学者の言説内容を時系列に並べるという体のものが多かった印象だが、本書は共同執筆ながら、国学を政治史的・文化史的に位置づけるという方法で一貫している。つまりその言説内容よりも、それが生まれた背景の説明に注力している。具体的にいえば、朝幕関係、儒学や神道、あるいは歌壇の動向、出版史などによく目配りしているし、人的交流にも叙述を割いている。荷田国学と懐徳堂との関係など、注目すべき指摘も備わる。江戸時代の中では荷田派国学の動向に紙幅を割いている点で国学院色を出しているが、全体的には最新の研究成果を十分に取り入れつつバランスのとれた国学史になっている。
以下は本書に導かれた述懐であるが、「国学」ということば自体は近代に生まれたものであり、江戸時代に和学・古学と呼ばれる学問を指すものとされるが、有職学・史学・歌学、そして神道などとの線引きも難しい。我々は、どうしても既存の枠組に呪縛されていて、当時の学のあり方をありのままに見ることが出来ていないように思われる。その言説の歴史的意味や現代的意義を考えることも重要だが、その言説がどういう場で生成したかという点にも注目すべきではないだろうか。それはわりとグローバルな問題意識であるように思うからである。どういう場で生成したかというのは、言説主体の人的交流をおさえる必要があるだろう。本書はその視点も有している。
この投稿の後半は、「人的交流と文芸生成の場」の研究の重要性を主張している私のポジショントークですな。ははは。
2022年07月06日
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