2022年11月12日

多田南嶺と八文字屋

堅牢で100年は持ちそうな汲古書院の『八文字屋本全集』の完結から20年以上経つ。学界への貢献は計り知れない。だが、全集完結以来、「八文字屋」を冠した研究書は、寡聞にして知らない。このたび、本家の汲古書院から、ついにそれが刊行された。神谷勝広さんの『多田南嶺と八文字屋』(2022年10月)である。南嶺は、八文字屋の重要な「代作者」で、南嶺研究なしに、八文字屋研究はない。ちなみに南嶺についても、古相正美さん以来の研究書ということになるのではないか?
本書はまず南嶺・八文字屋本研究史を振り返る。これは非常に有益。今後の浮世草子研究には必読になる。そして第一章が「多田南嶺」。まずは伝記的に押さえられるところを、実証的にひとつひとつ潰していくというやり方。生年、俳諧、淡々との関係、八文字屋との関わり、尾張時代、師系、と白話小説への意識。問題点・疑問点をまず明示し、資料を提示してそれを解きほぐす姿勢は一貫している。無駄のない、そっけないとさえ思える文章は禁欲的である。南嶺浮世草子の検討でも、モデル論に力点を置く。
後半第二章は八文字屋。まずその経営、その基幹出版物である役者評判記、劇書、絵本、挿絵の様式、挿絵典拠論と続く。
そして結章が、書名と同じく「多田南嶺と八文字屋」。全体のまとめにあたる。
南嶺のことにしろ、八文字屋にしろ、なにか調べたいと思ったら、まずこの本に就くということになる。
本書には、これからの課題も散りばめられている。長谷川強先生の、浮世草子研究への思いは、確実に受け継がれ、次世代へのバトンも準備されているのである。
 本書の奥付にも明記されているように、神谷さんは2020年に同志社大学を退職された。在職中もその仕事の速さには瞠目していたが、退職後はいっそう専心されているようである。2021年12月には『近世文芸とその周縁ー江戸編ー』(若草書房)を上梓、1年もたたずに本書、さらに、「近世文芸とその周縁」の上方編も準備されているという。どれだけのペースで研究書を今後出されていくのだろうか。
 また全集が整備された作者・本屋の研究ということについても考えさせられる。八文字屋全集よりもずっと早く完結した洒落本大成を使い倒した洒落本の研究書はまだ出ていない。WEB化で、全集のあり方も今後は変わってくる。いま刊行中の全集についても研究が続々出ることで、完結へむけての機運が高まることを期待したい。
posted by 忘却散人 | Comment(0) | TrackBack(0) | 情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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