2022年11月28日

日本近世中期上方学芸史研究

 稲田篤信さんの最新の研究論文集『日本近世中期上方学芸史研究 漢籍の読書』(勉誠出版、2022年11月)が刊行された。
 稲田さんは私より9歳年上で、学会では頼り甲斐のある先輩である。大学院生のころ、学会の懇親会ではじめて言葉を交わした時に、秋成よりも、「金砂」とか「をだえごと」という国学的著作が面白いとおっしゃっていて、私も同じ気持ちだったので、嬉しかったという記憶がある。もう40年以上も前の話か。その後、ご著書の書評をさせていただいたり、シンポジウムにお招きしたり、座談会でご一緒したのは、やはり秋成の縁だった。
 しかし、当初から稲田さんは、秋成個人というよりも、時代思潮に関心があり、雨月物語を論じても、閉じられた作品として論じることはなく、時代思潮と関わらせて論じられていた。若い頃の私はそこにあまり気づいていなかった。「近世中期上方学芸史」の構想はかなりはやくからあったのであろう。
 都立大学では、高田衛先生の跡を継ぐポストにいらっしゃったので、外から見ても、秋成研究者としての稲田さんという印象があったのではないか。高田先生との雨月物語注釈の共著もある。しかし、実は学芸に関心のあった稲田さんは、都立大から二松学舎大学に移られて、「近世漢学」の研究者として活発に研究を展開される。本書もその初出は多く二松学舎でのお仕事だといえる。
 、とはいえ、秋成に言及する3本の論文は気になる。とくに第9章「上田秋成の『論語』観」は、『経典余師』を補助線に使うという、従来の秋成研究では見られない方法である。鈴木俊幸さんの研究を踏まえているようだ。それだけでなく、つねに最近の研究をしっかり踏まえる論述は、研究者としての誠実さを窺わせるものである。
 本書は重厚で、実を言えば、これからじっくり拝読するという段階である。
 おそらくは、副題にあるように、都賀庭鐘の『過目抄』や奥田拙古の読書録など、近世上方文人の読書録が稲田さんのこの研究の基盤にあるのだろう。近世中期の上方文化を、漢籍の読書という人々の営為から浮き彫りにしようという本書は、地道な文献研究に根差しながらも、さまざまな示唆に富む発言が散りばめられた魅力的な研究書であろう。取り急ぎ、刊行を祝う気持ちを表してみた次第である。
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