2023年02月23日

近世後期江戸小説論攷

 2月22日のにゃんこの日は、国際研究集会「〈紀行〉研究の新展開」と題して、小津久足研究で注目されている菱岡憲司さん、飛鳥井雅有を研究している大阪大学大学院の湯書華さん、海道記研究のアダム・ベドゥナルチクさん、俳諧研究者の辻村尚子さんをお迎えし、さまざまな角度から、「紀行」を照射した。フロアーからの意見も出て、生業と風流、虚実、インターテクスチュアリティ、雅俗・・・などの問題が浮上し、懇談会に突入しても議論は尽きなかった。その開会の挨拶をしている最中に、宅急便が来たんだが、もちろん出ることは出来ない。幸い宅配ボックスに入れてもらっていたのが、山本和明さんの論文集『近世後期江戸小説論攷』である。前著からそんなに時間も経っていないのに早くも第二論文集である。
 そして、この第二論文集は、山本さんの思い入れが半端ない京伝を中心とした論文集である。「京伝が好きだ」と本人から聞いたことがある。しかし京伝の読本はあまり評価されていない。それは馬琴の『近世物之本作者部類』の呪縛から、いまの読本研究者が遁れられていないからだという。馬琴と京伝の読本は、めざす方向が違う。同じ物差しで、つまり馬琴読本を基準に京伝読本を測るべきではない、ということを本書ではまず強調している。
 第1部が「京伝作品攷」、第2部が「和学・和文小説攷」、第3部が「後期小説の周縁」である。90年代の論文もあり、長い道程を感じる。
 ところで、山本さんといえば、国文研のNW事業、つまり30万点の古典籍画像公開という大事業の責任者として、10年間、それこそ滅私奉公的な献身的な働きをしてきたことは、知っている人はよく知っているだろう。この件に関して、山本さんは国内外で数え切れないくらいの講演・レクチャーをしてきているのである。しかし、実は彼は研究上ではデータの人ではなく、本来的に「読み」の人である。大量のデータだけを示すような研究を唾棄している。その本領が発揮されているのが本書なのである。

 少し私的なことをいうと、大阪の大学に勤めていた山本さんとは、私が大阪に来る前からの付き合いであり、秋成の遺墨を多くお持ちであった谷川家との縁を繋いでくれ(たまたま谷川さんの親族が山本さんの秋成についての講演を聞きに来ていたというご縁)、十年以上も毎年谷川家調査を一緒にやった。また家人の非常勤を紹介してくれたりもした。研究上では、これも長い長い期間にわたる蘆庵文庫研究会や忍頂寺文庫の研究、そして鹿田松雲堂蔵書調査など、数々の共同研究でご一緒した(あるいは彼を巻き込んでしまった)のである。NW事業の普及の一環として阪大で発表・講演していただいたことも複数回あり、その流れでドイツのシンポジウムに一緒に参加したことも1度ならずあり、さらにはデジタル文学地図プロジェクトでも、お世話になっている。年度によっては同僚よりも会う回数が多かったかもしれない。

 そういうわけて、前書以上に、山本さんの思いが溢れている本書には、友人としての感慨を禁じ得ない。友人として認めてくれているかどうかはわからないけれど(笑)。

 そして目次をめくっていて驚いたのは第2部第2章に「古典再生ー『飛騨匠物語』」という論文があることだ。「えっ」と思った。初出も「〈古典〉再生ー石川雅望『飛騨匠物語』」である。2月11日・12日に行った国際シンポジウム「古典の再生」。「再生」はパワーワードだと言ってくれた人もいたが、なんと、すでに2003年に山本さんが論文タイトルに使っていたのである。この論文では『更級日記』はそれほど読まれていたテキストではないことから、雅望が、作品に持ち込んだ『更級日記』本文と考証が、『更級日記』という古典の再生になっているという。まさに「古典再生史」に欠かせない一齣だと言えるだろう。山本さんが使った「古典再生」という言葉を、はからずも、20年後、私たちは「再生」したことになるのであった。まさに奇縁である。
posted by 忘却散人 | Comment(2) | TrackBack(0) | 情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
飯倉さん
山本です。拙著ご紹介くださり忝く存じます。部数が前回より少し多く刊行されていますので、出版社にご迷惑はおかけしたくないのでありがたいことです。ご批正はまたお目にかかったおりにでもお聞かせください。
Posted by 山本和明 at 2023年02月23日 22:50
ご恵投ありがとうございました。拝読したものもありますが、一書になって見えてくるものがあるので、やはりまとめていただいてよかったと思います。「近世」と「江戸」と両方署名に入っている本は珍しいかもですね。「江戸」は上方に対しての江戸ですが。それで秋成を論じたものは割愛されたのかな、と思いました。
Posted by 忘却散人 at 2023年02月23日 23:09
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