現代なら、校正は電子データの上で簡単にできるのだが、江戸時代のように板木に文字を彫って印刷する「整版」の場合、間違った文字を削り取ってその跡に正しい文字を彫った板を埋め込むという作業になるので、大変である。しかし、まだ板木が存在するから、手間はかかるものの手作業での校正は可能である。だが、古活字版はそうはいかない。なにせ一丁ごとに活字を組んで、印刷が終われば、その活字をばらしてしまうのである。印刷したあと気づいたら「後の祭り」諦めるしかない・・・・と思いますよね?
しかし、古活字版でも校正の跡がちゃんと追跡できるのである。古活字版悉皆調査をしている高木浩明さんなら、そういう事例をいくつも見付けることができる。『日本古書通信』2023年9月号に載る、「古活字探偵事件帖」の第9回は、「古活字版の校正」である。
『平家物語』古活字版(下村版)では、巻首の章段名を落としてしまったため、巻首の一丁だけ、活字を組み替えた訂正版が作成されたという。稀な例だが、古活字探偵だから、その事例を発見できるのだ。章段名を入れると1行分ちぢめないといけないが、仮名を漢字に改めるなどの字数調整をするのだそうだ。
しかし、通常は胡粉を塗って上から活字を捺印するか、墨書して訂正するか、誤植箇所を切り抜いて裏から活字紙片を貼り付けるか、いやはや、1部だけではなく、印刷した本全部にやるのだから、大変である。とはいえ、私も印刷されて手元に届いた論文の誤植に気づいて、抜き刷りのひとつひとつに赤ペンで訂正を入れるという経験が若い頃はある。今は横着になって、「誤植があるようですけど、すみません」などと投げやりな謝罪を付言すればまだよういほうで、見て見ぬ振りをしてしまったりするのである。
さて、下村本というのは、古活字本の中でもずばぬけて伝本の多い本らしいのだが、訂正箇所が千箇所を超えるらしいが、それを数える高木さんもスゴい。誤植の訂正ではなく、他本を見て「校訂」したと思われる例も示している。他本の有力な候補が延慶本で、それは角倉素庵の工房で・・・、と探偵の推理は続くのである。
2023年10月03日
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