『国語と国文学』2023年11月号は、「読本研究の現在」を特集。10本の論考を載せる。発行が明治書院から筑摩書房に移っている。
私も「怪異語り序説ー前期読本への一視点ー」を書いた。前期読本を扱ったものが少なかったこともあって、巻頭になってしまったが、タイトルからわかるように、アイデアレベルの話である。一応「近世怪異文学史」「近世怪談文学史」を構想するとしたら、という前提でのアイデアなのだが、そこには当然「読本」が関わってくるという話。「怪談」という語は、実は近世以前の文献にも漢語にも見出し難い。これは「奇談」も同じ。どちらも談話性に着目すべきであり、史的展望をする場合は、怪異の語られ方の歴史を構想すべきであろう。
他の9本もすべて注目すべき論考で、「読本研究の現在」を示すのにふさわしい。ベテラン5人、中堅5人という執筆者構成だが、ほとんどの著者が具体的なトピックを扱いながら、大きな問題に及ぶ点で共通している。
私自身のアンテナにひっかかってきたのは、天野聡一「読本序文における羅貫中・紫式部応報譚」。私も気になっていた問題だった。神戸大学での序文をめぐるシンポジウムでご一緒した時の発表でもあり、興味深く読んだ。山本卓・菊池庸介両氏は、奇しくも速水春暁斎の絵本読本と種本としての実録の関係を論じる。同じく絵本読本を論じる板坂則子氏は江戸と上方で同時期に刊行された妖狐譚とその後の影響を論じて、上方読本を図像重視の立場から再評価しようとする、大きなパースペクティヴを持つ論である。神田正行・三宅宏幸氏の馬琴作品論は中堅の競作と見立てられる。木越俊介氏は氏のテーマのひとつ写本小説の紹介。そして馬琴の『近世物之本江戸作者部類』を精読しつつジャンルとしての読本を掘り下げたのが佐藤悟氏、スタンフォード大学に所蔵される江戸読本の挿絵抄録本から、絵入本の「国際化」に筆を及ぼす高木元氏。ベテランの味である。
前期読本論が少なかったのは残念だが、やはり近世小説史研究の王道たることを再認識させられる各論考だった。高木氏ではないが、「読本の国際化」はもちろんのこと、「読本研究の国際化」、あるいは「日本文学研究国際化のなかの読本研究」というのが今後の課題となってゆくのかなと思う。
2023年10月14日
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