2024年03月02日

後陽成天皇

 20名以上の歴史学・日本文学・美術史らの研究者を糾合して、後陽成天皇とその時代を多面的に追究する橋本政宣『後陽成天皇』(宮帯出版社、2024年1月)が刊行された。「秀吉と対峙しつつ宮廷文化・文芸を復興させた聖王」という副題である。江戸時代における上方(京都)の文芸を考えるには、どの時期であっても天皇の文事は避けられない。後水尾天皇・霊元天皇・光格天皇はその中でもきわめて重要で、これまでも盛んに論じられてきた。しかし、なんといっても、江戸時代成立の際に天皇であった後陽成天皇は、その始発なのだから、その文学的な意味を、きちんと教えてくれる本が欲しかったわけだが、まさに、現時点における決定版となるのが本書だろう。天皇の文事を考えるには、もちろん政治が強く関わる。とりわけ、後陽成天皇時代における朝廷は、江戸幕府という統一政権成立に深く関わる。それを詳細に教えてくれるのが本書である。秀吉との対峙のあり方も重要である。
 そういう意味で、歴史研究者の書いた文章が私には興味深かった。巻頭の橋本先生の総論はもちろんだが、矢部健太郎氏「豊臣摂関家の形成と「武家家格制」、藤田恒春氏「関白豊臣秀次と文事策」、田中暁龍氏「江戸幕府の成立と朝廷」、岸泰子氏「内裏・院御所の造営と公家屋敷地の形成」らが勉強になる。またコラムだが、川上一氏の「後陽成天皇歌壇寸見ー『慶長千首』から−」は、「現代の我々に当日の空気感を十分に伝えてくれている」資料の紹介だが、なにか後陽成天皇の人間性に触れたような気持ちにさせるもので、その「切り取り力」に感心した。
 もちろんその他の論考も興味津々である。六〇〇頁超の大冊で、これを1頁1頁めくっていくと、それだけでも昂揚を覚える。
 それにしても、本書には「はじめに」や「あとがき」がなく、なぜこのような論集を企画したのか、そのコンセプトや人選についての編者のコメントがないのが残念である。出来上がるまでかなりの歳月を費やしたらしいことは、何人かの論考の付記で推測されるのだが、そのあたりの苦労話などは・・・。と、大体、本のあとがきから読む私には、そこのところがちょっと物足りなかったのであった。


posted by 忘却散人 | Comment(0) | TrackBack(0) | 情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック