科研報告書の季節である。『最盛期読本の総合的研究』藤沢毅(研究代表者)、天野聡一、大屋多詠子、菊池庸介、木越俊介、田中則雄、中尾和昇、菱岡憲司、藤川玲満、三宅宏幸というメンバー。読本研究を引っ張っている西日本の研究者中心の精鋭たちだ。編者名も「西日本近世小説研究会編」となっている。
このメンバーは、継続的に読本の悉皆調査を目指して、次々に読本解題を報告書として刊行してきた。研究プロジェクトの継承は下記の通り。
2012-15 文政期読本の基礎的研究 研究代表者 田中則雄
2016-19 19世紀初頭・長編小説生成期における構成・素材・記述に関する総合的研究 研究代表者 木越俊介
国文学研究資料館にいた大高洋司氏の編んだ『読本事典』(2008)を継承するものである。
この基礎的な仕事があって、今の読本研究の堅固な地盤がある。思えば故横山邦治先生が発刊した『読本研究』から脈々と受け継がれる流れである。
最盛期とは文化五・六年だが、報告書は文化七・八年まで収めている。藤沢さんによる概観と、木越さんによる史的見通し、ほかそれぞれの研究者による各論があり、八二点の解題が記される。報告書はA4判であるが、解題は三段組ですべてちょうど1頁に収まっているのも見事である。字数調整にかなり苦労されたに違いない。
はじめにで藤沢さんいわく、「次に期待されるのは、文化九年から同一四年までの同様の調査研究である。これが成し遂げられれば、享和期から文政期までの読本の全貌が見渡せることになる」と。
まさにそれは待望される。そして願わくば、志ある出版社が、全体をひとつにした「読本大事典」を作っていただきたい。ただ、その場合、むずかしいのは前期読本の扱いですね。私見では後期読本だけでも、「読本大事典」を名乗って問題ないと思っていますが・・・。
2024年03月12日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバック