2024年03月15日

DH国際シンポジウムに登壇しました

この間、報告すべき研究集会・ワークショップがあったのだが、それは後日書くとして、今日のDH国際シンポジウムの会。久しぶりに脳の歯車に油が差された感じになった。この会は、九州大学と人文情報学研究所が主催、2日前には九大「接続する人文学」と題して、今日は東京の一橋講堂で「ビッグデータ時代の文学研究と研究基盤」と題して行われた。ラインナップは下記の通りである。

 第一部 ビッグデータ・文学研究・日本での可能性
基調講演 1 「機械学習時代に変わりゆく文学をつかまえること」
 Ted Underwood(イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校)
講演 「「遠読」を譯す―本邦における人文学的知のインフラの整備をめぐって」
 秋草俊一郎(日本大学 大学院 総合社会情報研究科)
講演 「ユーザ視点のデジタル・ヒューマニティーズ―研究,教育,アウトリーチ」
 北村紗衣(武蔵大学人文学部)

 第二部 デジタル研究基盤と文学研究
基調講演 2 「研究者がキュレーションした分析、再利用、普及のためのワークセット(SCWAReD)プロジェクト」
 J. Stephen Downie(イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校)
講演 「研究データの活用に向けた九州大学における試み」
 石田栄美(九州大学データ駆動イノベーション推進本部)
講演 「デジタル×文学研究に期待/妄想すること」
 川平敏文(九州大学人文科学研究院文学部門)
講演 「研究・教育ツールとしての日本デジタル文学地図」 
 飯倉洋一(大阪大学大学院人文学研究科)

総合ティスカッション

 ちょっと個人的な思いから先に書くと、DHがらみで私は何度もこれまでも厚顔無恥にプレゼンをしているのだが、自分が主催する研究会やシンポ、自分の知り合いがたくさん発表する研究会やシンポではなく、また単独講演でもなく、「他流試合」とひそかに称している場での発表は、3回目だと思う。これまでの2回は国立国語研究所と上智大学で、たぶんくずし字学習支援アプリのことを話したのであるが、とくに上智大学では英語発表の方が多く、かなり緊張して臨んだ次第。今回も登壇者のほとんどが、はじめてお会いする人である。唯一知っているのは川平氏だけなのだが、彼はオンライン参加。したがって対面では完全に知らない人ばかり。もちろん中心はイリノイ大のお二人の先生なので、打ち合わせの場である控え室では、英語が飛び交っている。「これから打ち合わせをはじめます」という挨拶さえ英語である。これにはのけぞったが、日本語でも説明してくれてほっとした。だが間違いないのは、私以外みんな英語での会話をへとも思っていない人ばかりだということ。もっとも、私もなんとか海外の先生方とは、ひとことふたことの挨拶と名刺交換はしております。
 フロアには知っている顔が少しいたが、全体的に日本文学関係者は少ない感じ。Ted先生、Stephen先生への質問は英語でやる人が多い。しかし今回助かったのは同時通訳のレシーバーが配布されたことで、おふたりのDH最前線のお話をストレスなく受講できた。
 1000万冊以上のデジタル資料を提供するHathiTrust。たぶん日本文学の研究者はあまりその存在を知らないが、フロアのほとんどは「知っている」に手を上げていた。もちろん日本でも国文研・国会デジコレの急速な展開で、一気にデジタル環境が整ってきている。しかし、なんといってもまだペーパーが主流で、デジタルはあくまで便利なツールにとどまっているだろう。だが、海外は違うな、というのを実感した。
 機械学習で文学史やジャンルを考えることができるのか、という問題は重要だが、妙なたとえだが「そこに山があるから登る」というモチベーションのような気がする。でもそういうモチベーションって大事なのかもなとも思う。フランコ・モレッティ『遠読』という本の翻訳者の秋草俊一郎氏も講演され、ありがたかったのだが、日本で「遠読」を研究的実践した例は、すくなくとも日本古典文学研究ではあまり聞かない。しかし、大量のテキストデータが生産されると、「遠読」的方法を用いて論文を書く人も出てくるのだろう。たとえばデータ化が進んでいる大蔵経で、遠読的方法による研究が既にあるのかどうか、聞きたかったのだが、聞きそびれてしまった。ただ、『遠読』は数年前に翻訳が出て、私も購入したのだが、今は品切れだという。これは意外だが、再刷する勢いはなかったのかしらん。まあ、まじめなみすず書房が出しているせいか、あんまり広告は見なかったよね。そしてもう一冊、Hoyt Longの『数の値打ち』という本のことも、教えていただいた。翻訳も出ている。どうも青空文庫などであつめた大量のデータを使って分析をしているらしい。青空文庫の検索窓を作った方だとうかがった。北村紗衣氏は、デジタルツールの情報収集のために学会誌などでデジタルツールレビューをしたらどうかと提案したり、Wikipediaへの関与をウィキペディアンとしてどう実践しているかの報告をされたのが興味深かった。川平氏の話は一番やはり研究領域が近いだけに、そうそうとうなずくばかり。「教育・研究ツールとしてのデジタル文学地図」は、私の名前で発表したが、実際はお断りしたように、開発チーム全員で作ったスライドである。そして、感触としてはまずまずだったかなと思う。スゴ本の伊藤さんが会場にいらっしゃたので驚いたが、「和歌と地図を重ねるのは面白い」と褒めて下さり、クラウドソーシングの可能性について尋ねられた。実はそれずっと前から考えています。しかし校訂本文の問題や、写真掲載の問題など、トラブル発生要素が現時点では多すぎるので悩ましいのである。
 総合討論では、あまりにも高度なフロアからの質問が続出。高度というのは専門的という意味ではなく、本質をとらえたという意味である。答える方も四苦八苦である。
 場所を変えての立食パーティーでも談論活発。ここで完全に脳の歯車がぐるぐる回り始めたのである。え、酔ってただけではないかって?うーん、否定できないかも(笑)
 とまれ、見事な運営を果たした九州大学と人文情報学研究所の皆様、とりわけ私のような者を呼んで下さった永崎研宣さんに深く感謝申し上げます。
posted by 忘却散人 | Comment(0) | TrackBack(0) | 情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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