若木太一先生のライフワーク『近世長崎渡来人文運史 言語接触と文化交流の諸相』(勉誠社、2024年6月)が刊行された。総頁数695頁の大著である。若木先生といえば、長崎学。九州大学大学院時代には(もしかすると山口大学時代にも)、長崎に訪書するたびに、若木先生のお世話になった。長く長崎大学に勤められ、さまざまな方面から近世長崎の文化を明らかにしてこられた。本書に入っていない研究成果も少なくないはずである。そして、上田秋成や西鶴の論文もある。『雨月物語』「白峯」の典拠論は不朽の労作で「白峯」研究の必読論文であるし、京都大学附属図書館所蔵の『ぬば玉の記』の紹介も貴重なお仕事であった。
本論文集のタイトルを見て、唸った。「なるほど!」である。先生の多くの業績をまとめるのに、これほどふさわしい書名は他にない。朝鮮と中国からの渡来の窓口は、対馬・長崎である。キーワードは「筆談」「語学書」「唐話」「通事」「黄檗」であり、これはまさしく、近世日本に大きく刺激を与えた新しい文化の通路だった。人物としては藤原惺窩・石川丈山・雨森芳洲・隠元・鐵心道絆・牛込忠左衛門・林道栄・劉宣義・劉図南・魏五左衛門龍山・向井元升・高玄岱・大潮元晧・高階賜谷・・・・とまさに多士済々で、そのほとんどの論考に年譜が付されている。渡来人と彼らと交遊した人々が生き生きと資料を通して描き出される。
25本に及ぶ論考の全てを読むにはどれだけかかるかわからないので、ひととおり頁を最後までめくったところで紹介させていただくことにした。第三部渡来人の系譜はなかでも唐通事・唐話会などを扱い、読本研究との関わりも深い。日本における新しい文学は、長崎を通して、渡来人によってもたらされたことが、いまさらながら認識させられる。
先生の論考の中には「後考を期す」ということばも見える。先生はここで一区切りを付けたが、まだまだやる気だな、と嬉しくなる。本書はおそらく歴史研究者にも多く読まれることになるだろう。
2024年06月14日
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