武藤元昭監修・木越俊介編『人情本入門』(花鳥社、2024年7月)が刊行された。
2010年に国文学研究資料館編で『人情本事典』(笠間書院)が刊行されて、もう14年というのに驚いたが、その続編という位置づけで間違ってはいないだろう。『人情本事典』は文政期の人情本を取り上げたが、その後の天保期、人情本の最盛期、『春色梅暦』を中心とする作品56の解題である。「入門」を謳うだけあって、人情本についての基本的な知識も数十頁にわたって掲載される。「商家繁栄譚」というのが基本だということである。
今はなき鈴木圭一さんは、人情本というより中本研究の第一人者であったが、2019年に逝去された。鈴木さんの遺された文章は人情本概説として貴重なものである。そして、その鈴木圭一旧蔵コレクションについても後学の伊藤さんによって書かれている。本書によれば、人情本の研究者に若い方が加わってきたのは頼もしい限りである。私と同い年の鈴木さんの研究が、このような形で引き継がれていくのは、嬉しいことである。とはいえ、人情本の研究は、読本に比べるとまだまだ隆盛とはいえない。本書が、若い人が研究を志すきっかけになればありがたい。以前にくらべ、画像データベースの充実によって研究もかなりやりやすくなっているので。
また、本書は大学のテキストとして使える一方、一般読者へもアピールする装幀となっている。人情本は、当時の江戸時代の女性を虜にした〈恋愛小説〉である。面白くないはずはない。この本を手引きに、人情本の読者が少しでも増えたら嬉しいことである。
2024年07月11日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバック