2024年12月06日

蔦屋重三郎

 来年の大河ドラマ、「べらぼう」の主人公、蔦屋重三郎に関心が集まっている。本屋にいくと、あまたの蔦屋重三郎本が所狭しと並んでいる。しかし、その中で、最も信頼できるのが、鈴木俊幸さんの本である。ここ何十年間、ずっとずっと、まぎれもない蔦屋重三郎研究の第一人者であり続けた。そして、「べらぼう」でも当然ながら考証に深く関わっている。講演依頼もひっきりなしのようで、今猛烈に忙しいようである。
鈴木さんは私と同世代。互いに院生のころに学会で知り合った。すでにこのころから詳細な蔦屋重三郎の出版書目年表を作成しておられた。その後は信州をとくに攻め、書籍流通史を中心に、膨大な業績を上げ、2冊の書籍研究文献目録は、近世近代の研究者にとって必携のツールとなった。私の敬愛する研究者のおひとりである。一度懐徳堂の春秋講座で『御存知商売物』のレクチャーをしていただいたこともある。
 蔦屋に関する決定的な研究書は『蔦屋重三郎』(若草書房)であるが、それをやや改編したのが『新版 蔦屋重三郎』(平凡社ライブラリー)、そして「べらぼう」に合わせるタイミングで新たに蔦重像を書き下ろしたのが、『蔦屋重三郎』(平凡社新書、2024年10月)。ビジュアルに見せるのが、監修をつとめられた『別冊太陽 蔦屋重三郎』(平凡社、2024年11月)である。
 鈴木さんの中でも、蔦屋像は微妙に変化しているだろうし、時代との関わりという点での知見も深められたに違いない。本だけでなく、肉声でそこのところを聴けたらどんなによいだろう。と思っていたところ、同志社女子大学で、鈴木さんの話がきけるというので、昨日の夕方、喜び勇んで出かけた。表彰文化学部連続公開講座「蔦屋重三郎とは何者ぞ」である。独特の話術で笑いをとりながら、蔦重の本質をきちんと資料に基づいて、淡々とお話になる。資料はフルバージョンで用意されているものの、いつも途中で時間切れになるそうで、今回も新吉原時代で残念ながらタイムアップ。
 しかし、本で読んで理解しているはずのことも、鈴木さんの肉声で聞くと、入り方が違う。蔦重のことを語るのに最適の声なんじゃないかと思う。あらためて蔦重の商才のすごさを確認できたのだが、同時に広告メディアとして、吉原散見や、遊女画像集をはじめとするさまざまな新趣向の本を出して行くのに、吉原の人々が入銀というやりかたでサポートしている実態と、そのサポートをとりつける蔦屋の人間通の一面が、手にとるように理解できた。吉原が蔦重を育てたという側面の重要性を認識できた。
 打ち上げにも参加させていただき、美味い和食と美味い酒を交わしながらの歓談はこの上ない愉しい時間であった。
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