2025年02月16日

歌川国芳展

大阪中之島美術館で2月24日(月・休)まで開かれている歌川国芳展。かなり大規模な展示で、前後期合わせて400点以上がリストに掲載されている。図録も非常に充実している。解説は一流の執筆陣の分担執筆である。
さて、今回、私にとって最大の収穫は「古猫妙術説」という戯画である。
佚斎樗山の初作の寓言短編集『田舎荘子』、その中でも特に著名な「猫の妙術」という話が典拠である。
私が最近出した『仮名読物史の十八世紀』の第一部第一章が樗山の作品を扱っている。『田舎荘子』は浮世草子に代わる画期的な江戸産の仮名読物であり、戯作であった。中でも「猫の妙術」はなかなか痛快かつ含蓄のある話である。勝軒という剣術師の家にすばしこい鼠がいて、なかなか捕まえられない。鼠を取るのが得意な猫たちが集められ、次々に鼠を捕ろうとするのだがことごとく失敗。最後に、どんよりした老猫が出てきて、見事(ほとんどなにもしないで)鼠を仕留めてしまう。この老猫の妙術に感心した他の猫たちが拝聴するという話で、剣術の奥義の寓話となっている。この話だけ『田舎荘子』から抜き出した写本が流通していたようで、わかりやすい剣術書として読まれていたようである。夏目漱石もこの本を読んでいたことは、漱石文庫に蔵められているので確実である。『吾輩は猫である』に何かヒントを与えたという可能性もある(重松泰雄)。それをモチーフにした絵を国芳が描いていたとは!
この老猫、別に大きいとは書いていないのだが、国芳は大きく描いていて、なにやら秘伝書らしきものを持っているのは、視覚的にわかりやすい。この1点のためだけに図録を買う価値があった。図録は個々の作品解説だけだが、それが非常に充実しているのが素晴らしい。
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