2025年04月26日

『大学改革』(中公新書)

竹中亨著『大学改革』(中公新書、2024年11月)を読んだ。大学を退職した私がなんでそんな本を読んだか。竹中さんをよく知っているハイデルベルク大学の先生が偶々来日しておられて、教えてくださったのみならず、わざわざポケットマネーで買って私に下さったのである。いわゆる法人化以後の大学について、わかりやすく書いているし、ドイツとの違いもわかりやすいから、というのである。
 竹中さんは、大阪大学文学研究科の西洋史(ドイツ史)の教授でいらっしゃったが、大学改革支援・学位授与機構の教授に転任された。私と年齢が近いと思っていたが、奥付の著者紹介によれば一つ年上のようだ。あまりお話したことはなかったのだが、多分、転出される1年くらい前に、たまたま食堂で昼食を一緒にしていたときに、研究資料や情報の整理の話になり、竹中さんはスキャナーを使って整理をしているということで、そのノウハウを詳細に教えてくださったのみならず、私の研究室に来てみる?と誘って下さり、いろいろ具体的に伝受をしてくださったのだ。そのあまりの見事さは、感動ものだった。そして、私が真似できるものではなかった・・・。しばらくして、会った時に、「資料整理、進んでますか?」と聞かれて、「いや、それがいろいろ忙しくて」と言い訳したのだが、多分、この人だめだな、と見抜かれていたに違いない(笑)。
 そういうこともあって、この本を読むと、竹中さんの声が聞こえるようで、すらすらと読める。いや、そうではない。実は文章が明快で論理的なので、実に読みやすいのである。日本の大学法人化をグローバルな視点で大学史に位置づけるのは、さすが歴史家だと思う。
 日本の大学と文科省の間には相互不信があり、そのことが本来の法人化のあるべき姿とほど遠い現実を生んだという分析は、竹中さんが大学にも長く在籍していたからこそ説得力をもつ。大学は、古き良き「学者の共和国」から、公的サービス機関に変わっている。ここを認められなければ大学人としてやっていくことは不可能である。
 ところで、新書の副題に「自律するドイツ、つまずく日本」とあって、帯には日本とドイツが「明暗を分けた」としているが、本書を読むと、決してドイツの大学改革を持ち上げているわけではない。この副題と帯はちょっと誤解を与えかねない。日本の大学改革以後の状況が、世界の中では特異であることを示すのに、竹中さんがよく知っているドイツを例に挙げているに過ぎない。ドイツもまた試行錯誤しているし、大学教員は大変である。
 本書から「切り抜き」という批判覚悟で、2点あげておこう。
1ドイツの教授任用について
 内部任用の禁止。教授任用は必ず外部からに限るという原則。
 そもそも、空いたポストについて、それを引き続き埋められるかは参事会の承認が必要。
 選考主体はその都度組織される人事委員会で10名程度。人事は必ず国際公募。学外からも1、2名加わる。
 書類選考をへて数名に絞られた本選考では、面接・抱負の開陳・講演・模擬授業などを行う。
 最終候補リストの作成。推薦順位をつけて3名ほど。
 教授会・参事会で審議され、最終的には学長が判断。推薦された候補者全員が×なら人事は振り出しに。
 任用が確定するまでには、俸給・手当・研究室予算・秘書の数など折衝。
ちなみに有力大学の教授に招聘されるには、最低3冊の著書が必要。1冊は博士論文、次は教授資格論文で博士論文とは違うテーマで書かなければならない。3冊めは巨視的なテーマを扱った著書。それぞれ数百頁程度の専門書。
2 政府の大学管理の日独比較
 日本の場合はお馴染み、中期目標・中期計画。目標が達成されたかを事後チェック。
 ドイツの場合は目標管理方式という点は同じだが、業務協定という形になる(ドイツのみならずヨーロッパでは7カ国、ほかにもオーストラリア・カナダなど)。業務協定のありかたは、ゆるやか。数値目標は多くない。そして日本の「中期計画」にあたる取り組み方については不問。また総花的ではなく選択的。重点的なものを選んであげる。また成果検証もゆるやか。とはいえ、事業報告書は毎年、百頁くらいにわたって具体的に数値をあげつつ為される。その自律的な空気をつくる厳格な学内規律がある。ここは本書を実際に読んでいただきたい。
 いずれにせよ、日本の場合、研究教育の運営が大学の裁量に任されるという理念のもと行われた法人化によって、逆に大学の統制が強くなってしまったという状況が生まれているという指摘もある。
 大学に関心のある一般の人たち、あるいは我々大学に関わっている者も、実は大学の運営や文科省のやり方をあまり知らず、イメージで決めつけてしまっていることが往々にしてある。大学に対するさまざまな誤解もあるだろう。とりあえず、本書は大学改革の現状を知るための道しるべになる、奇をてらうところのない、読みやすく分かりやすい本である。
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