2025年05月16日

大阪ことばの謎

金水敏さんの『大阪ことばの謎』(SB新書、2025年5月)が刊行されました。ほぼ一気に読めました。
大阪言葉とか大阪人気質、大阪人キャラに、私はこのところ興味を持っています。これは、私が研究している大阪生まれの秋成が、その晩年、京都に住んでいながら、自らを「浪花人」と称していることが多く、彼が大阪人としてのプライドやアイデンティティーの根拠をもって、京都で暮らしていたということに注目しているからです(拙稿「浪花人秋成」『雅俗』21号、2022年)。この本は、ことばのみならず、まさに大阪人気質やステレオタイプにも言及されているので、興味津々でした。
 そもそも、学士院会員でもいらっしゃる雲の上の学者の金水さん(と気安く呼んですんまへん)ですが、全くの同世代で、勿体なくも大阪大学退職も同時でして、その後もあたたかく接していただいております。これまでも、授業のヒントをいただいたり、とても助けていただいているのですが、私が、『上田秋成ー絆としての文芸』(大阪大学出版会、2012年)を書いている時に、秋成とその妻の会話を現代語訳する際に、大阪弁風にしたところがあり、大丈夫かどうか見ていただいたことがあるのです。とても助かりました。
 私は九州生まれとして、大阪人や大阪弁に接して25年目となり、エセ大阪弁くらいはなんとかしゃべれるかなという感じになってきましたが、それは実はテレビから得たところが大きいのです。というのも、大阪大学の中では、大阪弁が飛び交っているわけではなく、大阪人ばかりのコミュニティとかにも参加したことはなく、せいぜい買い物で対面販売の時とか、食堂で飯食ってるときの店員さんとかで耳にするくらいだからです。自分は「本当の大阪弁は知らない」と思い続けてきたのです。
 ところが、この本を読んでちょっと驚いたのは、「「ほんもの」の大阪弁というものは存在しない」と断言されているところです(101頁)。私も漠然と、「船場ことばこそ、真の大阪弁だ」と思っていた一人でした(根拠なし)が、大阪弁・関西弁については、「絶えず変容していくエネルギーこそがその活力の源である」ということなのです。大阪弁の歴史を扱った第4章は、私にとってとても面白かったです。
 第五章では、大阪人のステレオタイプ、関西弁キャラについて考察されており、役割語研究と関わりの深い章となっています。そこでは、冗談好き、けち、くいしんぼう、派手、好色、ど根性、やくざ等が上げられているのですが、〈一方で、近世の世話物浄瑠璃に出てくるのは柔弱なダメンズだよな〉と思っていたら、そのことにも触れられていました。侠的なキャラクターとして『夏祭浪花鑑』があげられていて、それはやくざキャラの先取りと見えるということです。秋成も、侠のキャラを自分の育った堂島の気質ととらえていて、そのモデルとして黒船忠右衛門を例示していますが、この人も先取りといえるのかもしれません。
 また方言を一種のコスプレとして使うという、「方言コスプレ」の話は面白いですね。私自身、無意識にそれやってますわ。なんやろな、そっちの方が話しやすいいうことがありますねん。
 あと213頁に「よういわんわ」の「よう」が「よく」の音便という説明がありますが、この「よういわん」は「えいはぬ」(言うことができない)という古語が変化したものという説明を聞いたことがあって、そうなのかと感心した記憶があるのですが、どっちなんでしょう?
 とまれ、いろいろなこと思い出させる本ですね。それにしても、ここ何十年か、つまり平成以降の、大阪弁の変容について、実に目配りよくデータを集めておられるのに感心した次第。なつかしいテレビ・ラジオの番組名にうなずきながら、ほんま、すごいわあとひとりごちていました。GqurmASW0AAWd4R.jpeg
posted by 忘却散人 | Comment(2) | TrackBack(0) | 情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
過分の御言葉、恐縮いたします。ありがとうございました。秋成についてはとても勉強になりました。
Posted by 金水 敏 at 2025年05月16日 10:17

これはまたもったいないおことば、ありがとうございます。
Posted by 忘却散人 at 2025年05月16日 10:59
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